先日このブログで、新字と旧字、異体字について記事を書いた(「御嶽山」と「御岳山」の違いとは?)。今回はさらに「表外字」というものについても触れたいと思う。表外字とは、常用漢字表(日常生活で普通に用いると文部科学省が定めた字。2010 年に改定)に含まれていない字のことだ。また、常用漢字表に含まれていない字のことを表外字と言うが、字が含まれていても音・訓が含まれていないこともある。これを表外読みと呼んでいる。新聞記事を読んでいて、「けん制」や「進ちょく」「改ざん」といったまぜ書き(ひとつの熟語の中にひらがなと漢字が混在すること)を見たことがないだろうか。全部漢字で書けばいいのに、と思った方もいることだろう。これは、熟語の中に表外字が含まれていることが原因だ。
そもそも常用漢字とは、1923年に文部省の臨時国語調査会が漢字節減のために発表した「常用漢字表」がはじまり。そして46年、文部相の諮問機関である国語審議会により、現代国語を書き表すために日常使用する漢字の範囲が「当用漢字」として発表された。81年には、義務教育の期間に読み書きともに指導すべき範囲として「常用漢字表」に改められる。これが2010年に改定された現在の常用漢字の前身だ。なお、今は文部科学省文化審議会国語分科会が担当している。
正直、入社3年目の自分としてはこの表外字がいちばんやっかいだ。旧字や俗字はなんとなくこれっぽい!というのがあるし、毎日新聞用語集を見ればわかることが多い。でも表外字や表外読みを含む熟語は用語集にも載っていないことが多々あるのだ。一字一字確かめるしかないのか……。ややあきらめ気味で愛用の岩波国語辞典をめくっていたある日、見出し語にちいさい「×」や「△」がついているのが目にとまった。なんとこれは表外字と表外読みを表していたのだ。知らないことばかりだな、と反省しつつ、その日から辞書がより強い味方となった。
とはいえ 10 年に常用漢字に追加された字はまだ定着していないということで、新聞協会でルビをふってはどうかということになった。それをベースに各社話し合い、毎日新聞でも記者間の調整でルビをふる字を決めている(「真摯(しんし)」「恣意(しい)」など)。ここはやっぱり用語集の出番。辞書ばかりじゃだめなのだ。ただ、ルビをふってあれば新しく追加された字なのかというとそういうわけでもない。毎日新聞では基本的にまぜ書きを避けるようにしているので、表外字でも慣用とみなされればルビをふって漢字を使用することも。「安堵(あんど)」なんかはその類いだ。しかしほかの語と混乱しないであろう語については、はじめに挙げたようにまぜ書きという手段もある。ちなみに、「進ちょく」は現在ルビをつけて「進捗(しんちょく)」としているので紙面で確認してみてほしい。
さて、私事ながら最近電子辞書を新調した。タッチペンで字を書くとそのまま検索できるというシロモノである。いままで読めない字を部首や画数から引いては四苦八苦していた自分にとって、よだれが出るほどうれしい機能だ。しかも国語辞典を引けば常用漢字の別までわかる。こんなハイテクなことがあろうか? かかってこい、表外字!
しかしふと、中・高の英語の授業で先生に言われた言葉が脳裏をよぎる。「電子辞書で引いても覚えない、紙の辞書を引け!」。やっぱり急いでいるとき以外は紙の辞書にお世話になろう、と思い直した。人間、最後は地道な努力がものを言う気がして。
【斎藤美紅】