スポーツ面の校閲をしていた昨年のある日、野球記事の原稿に「変化球で交わして」という記述があり、「かわして」と直した。漢字で書くなら「躱して」となるが、常用漢字表にない字や読みは特段の制約(言い換えにくかったり、外部筆者による表現指定があったりなど)がなければひらがなに直す。
プロ野球オリックス・バファローズの背番号4・ヘルマン選手。同選手の応援歌の後半は「襲い掛かる/敵を躱し/全力で飛び込め」と歌う。「躱」とはまた難しい字を使ってきたなと思いながら暗記していたのが役立った。「かわす」といえば、同球団には「しのぎを削る」ならぬ「凌(しの)ぎを交わした」というフレーズを含む選手応援歌もある。こちらはれっきとした歌詞、なおかつ「造語」であり、書き換えはできない。
「如何なる」「怯まぬ」「所以」「狼煙」「滾る」。同球団の選手応援歌に含まれるフレーズだが、いずれも常用漢字表にない。それぞれ「いかなる」「ひるまぬ」「ゆえん」「のろし」「たぎる」と読む(歌う)。もし紙面にこれらの語が出てくれば、特段の制約がない限りひらがなにすることになる。
やっかいなフレーズもある。背番号62・山崎勝己選手の応援歌の歌い出し「土埃に塗れ」は「つちぼこりにぬれ」ではなく「つちぼこりにまみれ」と読む。「ぬる」は常用漢字表に記載されているが、「まみれる」は記載がない。また、背番号7・糸井嘉男選手の応援歌では「腕力で叩き込め」。「叩く」は常用漢字表になく「たたく」(または「はたく」)とひらがなに直したくなる字だが、問題は「腕力」。「わんりょく」ではなく、常用漢字表の範囲で読めない「かいなぢから」と歌う。糸井選手が打席に立っているとき、たびたび「かいなぢからで……たたきこめー!」の大合唱が聞ける。
大型補強を敢行したものの、開幕直後の大失速が響き最下位に沈む今季のオリックス。本紙「記者の目」の毎年恒例・運動部記者によるプロ野球順位予想での「今季のオリックスは補強が『かみ合わないのでは』『空回りするかも』」という予想が的中している形だ。オリックスファンとしてはチームの浮上を願いつつ、校閲作業では周囲と議論を「交わ」しながらうまく誤りを「かわ」していきたい。(応援歌の歌詞は京セラドーム大阪の入場ゲートで配布された「応援歌ハンドブック」から引用)
【武田晃典】