「極め付き/極め付け」という言葉について伺いました。
目次
「極め付き/極め付け」は五分五分
戦争を仕掛けるなんて、「極め付○」の愚行だ――カギの中、どう言いますか? |
極め付き 34.8% |
極め付け 34.7% |
愚行については「極め付き/極め付け」いずれも言わない 30.5% |
定評がある、誰もが認める、といった意味で「極め付き」と「極め付け」のどちらの語形を使うかという質問への回答はほとんど差がつきませんでした。一方で3割の人は「愚行」について「極め付き/極め付け」は使わないとしました。
「極め」は鑑定書のこと
「書画・刀剣・茶道具などの鑑定書。極め札」(大辞林4版)を意味する「極め書き」という言葉があり、「極め付き」は「書画・刀剣などで、極め書き・極め札がついていること。専門家が鑑定して、その価値を保証していること」(同)となります。「鑑定書付き」という意味ですから、語形として「極め付き」となるのは自然なことと言えそうです。
意味の上では、そこから転じて「定評があること。折り紙付き」(同)として使われます。「定評」というのは「広く一般に認められている評判・評価」(同)ですから、「極め付き」とは良いものと認められていること、という意味に取るのが普通かもしれません。しかし、この意味での大辞林の例文は「極め付きの悪党」――定評のある悪党がいたっていいじゃないか、と言っているようです。
NHK調査では「キワメツケ」がやや優勢
語形については、NHK放送文化研究所の2020年度「日本語のゆれに関する調査」で詳しい調査がされています。今回の質問文に近い形としては「これは、〔極めつき/極めつけ〕の作品です」といった場合にどちらの語形を使うかという質問がされています。主な選択肢の割合は以下の通り。
「これは、〔極めつき/極めつけ〕の作品です」
1.「キワメツキ」と言う(キワメツケとは言わない)33.8%
2.「キワメツケ」と言う(キワメツキとは言わない)42.1%
3.両方とも言うが、どちらかといえば「キワメツキ」と言うことのほうが多い 9.4%
4.両方とも言うが、どちらかといえば「キワメツケ」と言うことのほうが多い 10.2%
大差ではありませんが、「キワメツケ」がやや優勢です。なぜこちらが選ばれるかは推測の域を出ないのですが、「据え付ける」「当て付ける」のような動詞の場合、それを名詞化したものは「据え付け」「当て付け」といった形になります。「極め付け」も本来の意味が薄れて、そうした下一段動詞の名詞化と同様に考えられているのかもしれません。
酒飲みには「極め付き」が似合う?
「愚行」のような良くないものについても「極め付き」が使えるかというのは、さきに大辞林の「極め付きの悪党」という例を引きましたが、明鏡国語辞典(3版)には「極め付きの酒豪」、大辞泉(2版)には「極め付きの大酒飲み」という用例が出ています。なぜか酒飲みがもてはやされる――大辞泉の語釈は「すぐれたものとして定評のあること」とあるのですが、大酒飲みとしてすぐれている、というのも変な話です。
回答から見られる解説でも引きましたが、日本国語大辞典(2版)は「本来、よいことについていうが、否定的な事柄についてもいう」と説明しています。大辞泉も「大酒飲み」を用例として挙げていることから見るに、「すぐれたもの」というだけでなく、「誰もが認めるもの」「際立ったもの」といった意味合いも認めているのかもしれません。
形も意味も揺れる言葉
今回のアンケートは、「極め付き/極め付け」という語形が半々、良くない意味には使わないとした人が3割という結果から見て、この言葉が現時点で揺れている言葉なのだという意識を強く持ちました。三省堂国語辞典(8版)にはさらに俗用として「最もすごい例。『彼の武勇伝の極め付き』」という用法も載っています。上記の放送文化研究所の記事には「近年は『はなはだしい例』といった意味で『キワメツケ』と言う場合もある」との記述があります。形も意味も、今後とも気にかかる言葉といえそうです。
(2022年03月22日)
新聞・通信社の用語集は「極め付け」を誤用とし、「極め付き」を使うように案内しています。毎日新聞用語集の「誤りやすい表現・慣用語句」の欄には「極め付け→極め付き 『極め』は鑑定(書)のこと。『鑑定書付け』といわないのと同様に『極め付け』は不適切」とあります。「極め」とは価値の保証のことなのです。▲とはいえ一般に「極め付け」が使われるのも事実で、最近のNHK放送文化研究所による調査でも「極め付け」がやや優勢です。NHKでも言い方としては「極め付き」のみを推奨していますが、以前には、「極め付け」を認めるか議論に付したこともあったそうです。▲ただし、この言葉には意味上の問題もあります。日本国語大辞典(2版)は「世間一般から、はっきりした評価を受けていること。(中略)本来、よいことについていうが、否定的な事柄についてもいう」という説明を載せています。つまり質問文のような使い方は、本来の用法からは外れるということ。出題者は、現在は「否定的な事柄」についても問題なく使えると考えていますが、こうした意味合いも含めて伺ってみました。いかがでしょうか。
(2022年03月03日)