外国名の1字略について伺いました。
「越」は「分かる」が6割でも省略形を使えるかどうかは賛否半々
米、仏などの外国名の1字略。「越」はどこの国か分かりますか? |
分かる 50.6% |
分かるが、使わない方がよい 8.6% |
分からない 40.9% |
回答から見られる解説にも記したように、「越」は「越南」すなわちベトナムです。
分かるという人がほぼ6割ですが、「使わないほうがよい」と答えた方もいるため、「越」という省略形を使えるかどうかについての賛否はほぼ半々と考えます。半々となると、新聞としては使用にかなり気を使った方がよい、ということになりそうです。
大方の新聞社・通信社の用語集は、「日越関係」のように国名を列記する場合などと限定しつつも「越」の使用を認めており、毎日新聞もルール化はしていないのですが、実態としては同様の扱いになっています。通常は「ベトナム」という国名が明記された後に「日越」などと書かれるので、意味が取れないということはなさそうですが、見出しに出てくると「?」と思う人もいるかもしれません。
各社の用語集を見ると、米(アメリカ合衆国)、英(イギリス)、仏(フランス)、独(ドイツ)などは当然許容されていますが、意外にもロシアのことは「ロ」とする社が多数派です。毎日新聞はほとんどの場面で「露」としていますが、「日露戦争」のような例を除いては「ロ」とする社が多いのです。帝政ロシアと現代のロシアを区別するためという考え方もあるようですが、国としての連続性を考えると、その区別も必要かどうかは議論が分かれそうです。
毎日新聞用語集より
江戸時代の「蘭学」でおなじみの「蘭」(オランダ)も、ルール上は各社とも使わないことになっています。常用漢字の範囲外だからという配慮もあるようですが、イタリアの「伊」も表外字ながら、こちらはどの社も使用を認めています。主要7カ国に入っているから、などの理由があるのかもしれません。
ほかに、印(インド)▽豪(オーストラリア)▽比(フィリピン)▽加(カナダ)あたりがメジャーなところで、一般の記事にも登場します。西(スペイン)▽墨(メキシコ)▽伯(ブラジル)は団体名など固有名詞の一部としては記事に出ることもあります。墺(オーストリア)▽希(ギリシャ)▽葡(ポルトガル)▽白(ベルギー)▽愛(アイルランド)となると紙面で使うにはちょっと不都合でしょうか。泰(タイ)▽緬(ミャンマー)▽馬(マレーシア)などは戦前世代にはなじみ深いかもしれませんが、今はほとんど見ることもありません。
ここまで1字略を列挙してみましたが、面白いものもある一方で、意味が伝わりにくそうなものもあります。「越」は伝わるか伝わらないかの境目あたりに位置するのではないか、と今回伺ってみたのですが、まさにその通りの結果だったと思います。字数の少なさは実に新聞向きである1字略なのですが、だからといって乱用されることのないように目を光らせねばならない――と、新聞校閲としては改めて認識した次第です。
(2018年06月29日)
国名の1字略「越」は「越南」すなわちベトナムのことです。中国の支配下にあった頃は「安南」と呼ばれていましたが、19世紀に独立した阮(グエン)朝が国号をベトナム(越南)に改めました。その後のフランスによる植民地化から独立した際にもベトナムの国号は残り、「越」という略称もそれなりには知られているかと思いますが……。
毎日新聞用語集では「漢字と仮名の使い方」の欄で外国の国名、地名のうち「米 露 英 仏 独 伊 豪 加 印 比 加州」といった略称は「漢字で書いてよい」としているのですが、「越」は含まれていません。ですが、実際には「日越関係」のような形で記事中に出てくることもあり、使用を簡単に否定はできない状況です。
新聞の場合は、特に見出しにおいて文字減らしを強く要請されるため、1字略は重宝される傾向にあります。とはいっても、伝わらなければ意味がないのも事実。バランスが大事だと考えています。
(2018年06月11日)