「年中行事」の「年中」をどう読むかについてうかがいました。
目次
「ねんじゅう」より「ねんちゅう」
「年中行事」どう読みますか? |
ねんじゅうぎょうじ 26.4% |
ねんちゅうぎょうじ 73.6% |
やはりというべきか、「ねんちゅう」が圧倒的で「ねんじゅう」は4人に1人くらいにとどまりました。
「ねんちゅう」は「許容」扱いだが
「年」も「中」も小学1年生で習う字です。一般的な文章では読み仮名が付くことはまずありません。
また、「ねんじゅうぎょうじ」も「ねんちゅうぎょうじ」も、耳で聞くと似た発音であるため、特にどちらか気にすることなく自分がそうだと思う読み方のままで固定し、他の読みが存在するなど思ってもみない人が多いのではないでしょうか。
辞書にはどういう形であれ「ねんじゅう」も「ねんちゅう」も併記されており、どちらも正しいことは間違いありません。
しかし、2種類の読みがあることに気づいてしまうと、「どちらでもよい」と分かっていても、「どちらがよりよい」かが気になってしまいます。
特に放送関係者は気になるところでしょう。日本新聞協会の「新聞用語集」には放送各社の会議で作る「放送で標準とする読み方例」というページがあり、「年中行事」も載っています。
① ネンジューギョージ
② ネンチューギョージ
①は「望ましい読み方」、②は「許容される読み方」です。
「ねんちゅう」から「ねんじゅう」に変えた辞書も
毎日小学生新聞はほぼ総ルビです。記事データベースで調べると「ねんちゅうぎょうじ」22件、「ねんじゅうぎょうじ」14件と、総数が少ないので決める根拠としては薄弱ですが「ねんちゅう」の方が多く出てきます。
職場にある辞書で「ねんちゅうぎょうじ」「ねんじゅうぎょうじ」のどちらで語釈を付けているかを調べました。つまり、語釈がない方はいわゆる「空見出し」で別の方に導くという方式です。これでどちらを主としているかが推測できます。
「ねんじゅうぎょうじ」より「ねんちゅうぎょうじ」の方が、若干上回っていました。ただし、三省堂現代新国語辞典は「ねんちゅうぎょうじ」を空見出しにしつつ、「ねんじゅうぎょうじ」の説明がふるっています。
古来、朝廷・宮中で、毎年それぞれきまった時節に行われてきた、一定の儀式。[現在の民間の行事や祭礼としては「ねんちゅうぎょうじ」と言うことが多く、「年間行事」とも言う]
とのこと。歴史用語は「ねんじゅうぎょうじ」で、今の一般行事は「ねんちゅうぎょうじ」という分け方です。
面白いことに、この辞書は6版では「ねんちゅうぎょうじ」で語釈を付けていました。7版で「ねんじゅうぎょうじ」に移したのです。
理由として考えられるのは、この辞書が「唯一の高校教科書密着型辞典」をうたっていることです。そして高校の歴史教科書の一つを見ると、平安時代のところで出る年中行事の読み仮名が「ねんじゅうぎょうじ」となっています。三省堂現代新国語辞典の変更はそれを踏まえた上で、注釈を丁寧にしたのではないでしょうか(違っていたらごめんなさい)。
一般的には「ねんちゅう」でよい
歴史学と民俗学でも割れているようで、「岩波日本史辞典」(1999年)では「ねんじゅうぎょうじ」、「日本民俗大辞典」(吉川弘文館、2000年)では「ねんちゅうぎょうじ」となっています。
歴史としては平安時代の「年中行事絵巻」などで「ねんじゅう」と呼び習わされているようです。当時、本当にそう言われていたかは不明ですが、17世紀初めの「日葡辞書」(邦訳は岩波書店)によると「Nengiū」とあり、少なくとも「年中」単独の語では当時「ねんじゅう」と言われていたことが分かります。そして明治初の本格的辞書である大槻文彦の「言海」でも「ねんぢゆう」と書かれています。
それがいつごろ「ねんちゅうぎょうじ」と言うようになったのでしょう。
「修訂大日本国語辞典」(冨山房)に「ねんぢゅう(年中)」とは別に「ねんちゅうぎゃうじ(年中行事)」が立てられています。書庫にあったのは1966年新装版25版ですが、初版は1915年。もしその時から載っていたとしたら、大正時代から「ねんちゅうぎょうじ」と言われていたと判断できます。
いつごろ広がったかはさておき、今では「ねんちゅうぎょうじ」と読む人が圧倒的に多いことがアンケートで確認できました。歴史用語としてはこれからも判断に迷うことになりそうですが、今の民間行事としては「ねんちゅうぎょうじ」にして問題ないと思いました。
(2024年08月05日)
新聞など普通の文字メディアだと「年中行事」という簡単な漢字に読み仮名が振られることはまずありません。読者も辞書を引くことはほとんどないでしょう。知らない人が多いかもしれませんが、実はこの言葉には2種類の読み方があります。確認した限りでは、辞書にも両方載っています。
新明解国語辞典は「ねんちゅう」を「ねんじゅう」の新しい言い方と記しています。その上で年中行事は「ねんちゅう」の方で立項し「ねんじゅうぎょうじ」とも読むという位置づけです。
NHKの「日本語発音アクセント新辞典」でも両方(ネンチューギョージは「許容」の扱い)載っていて、要するにどちらでも間違いではないのです。でも、毎日小学生新聞は原則としてすべての漢字に読み仮名を振っているので、どちらで振ればよいか迷います。皆さんはどちらがよいと思いますか。
(2024年07月22日)