「首を振った/首を振らなかった」をそれぞれどう解釈するかについて、うかがいました。
目次
「振る」も「振らない」も「反対」が多数派
彼はその提案に「首を振った」――彼はどのような立場だと受け取りましたか? |
提案に賛成 3.7% |
提案に反対 61.6% |
これだけでは判断できない 34.6% |
それでは、彼はその提案に「首を振らなかった」なら? |
提案に賛成 11.1% |
提案に反対 51.3% |
これだけでは判断できない 37.6% |
「首を振る」は「首を縦に振る=賛成」「首を横に振る=反対」の双方の意味を含みます。そのため質問文のように、提案に「首を振った/首を振らなかった」としただけでは、どちらの意味かはっきりしません。
とはいえ「振る/振らない」のいずれも、「反対」の立場だと受け取った人が半数以上を占めました。提案に「首を振った」であれば「横に」、「首を振らなかった」なら「縦に」と補って判断した人が多かったということになります。
「横に」は省略される傾向
毎日新聞の記事データベース(東京本社版)で「首を振る」の使用実態を調べてみました。「縦」「横」の方向を明記しているものや、「扇風機が首を振る」のように動作を描写しただけのものを除くと、直近30件のうち「賛成」のケースが2件、「反対」が28件でした。「首を振る」を「反対」だと解釈する皆さんの感覚は、実態からもおおむね正しいといえそうです。
また広辞苑7版を引くと「首を縦に振る」は「相手に同意・賛成の意を表す。うなずく」、「首を横に振る」は「相手に不賛成・不満の意を表す。首を振る」とあり、「首を振る=横」としています。どちらかといえば、うなずく場合は「首を縦に振る」としっかり書き、「首を振る」は「首を横に振る」を省略した形として使う傾向にあるようです。
「かぶりを振る」なら「反対」
データベースを検索していて特に多く登場したのは、「捕手のサインに首を振って直球を投げる」など、野球に関する記事での使用例でした。この場合、自分が投げたいコースと違うものを捕手が指示しているから首を振るわけで、サインに従うのであれば投手はあえて首を振らないはず。こうしたイメージからも何となく横に振っているさまを連想するのでしょうか。
似たような表現に「かぶり(=頭)を振る」がありますが、こちらは慣用句として用いられ、反対・否定の意味に限られます。一方で「首を振る」は前出の扇風機の例のように単なる動作も表すため、特定の意味を持つ慣用的表現とまではいえないでしょう。うなずく時には縦に、否定する時は横に首を振っている様子を示しただけともいえます。
ブルガリアでは縦横が逆の意味
ところで「明治」のブルガリアヨーグルトのホームページによると、ブルガリアには「『はい』と言う時に首を横に振り、『いいえ』の時には縦に振る」世界的にも珍しい習慣があるようです。ということはこの場合、「首を縦に振る=反対」、「首を横に振る=賛成」となるのでしょうか?
今回の質問では「これだけでは判断できない」と回答した人がともに3割以上いました。動作を示した表現である以上、「首を振る」だけではわかりにくいのは事実です。ブルガリアの人にはむしろ誤解されてしまうかもしれませんが、どちらの意味にも取れるような文脈の場合は、はっきりと「縦」か「横」かを書いた方がよいでしょう。
(2021年11月12日)
大辞泉2版によると、「首を振る」とは「①首を縦に振って、承諾・賛成の気持ちを表す。うなずく。②首を横に振って、不満や不賛成の気持ちを表す」。つまり、「首を振る」としただけでは縦に振ったのか、横に振ったのかが分からず、どちらともとれる曖昧な表現になってしまいます。▲紙面でも「首を振る」という表現をよく見かけます。とはいえ、「『いや、それは違う』と首を振った」「『その通り』だと、みな一様に首を振った」などのように使われ、前後の分脈からどちらの意味なのかが判断できるという場合が多いようです。▲では質問文のような場合ではどうでしょう。「その提案」という情報だけでは、縦と横どちらに首を振ったかの判断は本来つかないはずです。というわけで「これだけでは判断できない」となるのか、はたまた特定の意味に受け取る人が多数になるのか、うかがってみようと思います。
(2021年10月25日)