まずは問題です。
・便図
・弁図
・ベン図
以前「弁図」という表記が何カ所も出たまま印刷寸前になり慌てたことがあります。数学で習う「集合」を理解するのに便利だから「便図」と覚えている人がいるなら分からないでもないのですが、「弁図」はどういう思考回路から出た漢字なのでしょう。「弁別」の弁からでしょうか。
実はベン図というのは英国の論理学者ベンが考え出した図だそうです。だから、正解は「ベン図」です。
このように、元は外国語なのにいま日本語とごっちゃになり、元から日本語だと思い込んでいる人がいる語や、逆に外来語のように思われがちな日本語の例を挙げてみます。
目次
「だんとつ」は「断然トップ」の略なので
「断トツ」。これは「断然トップ」の略だとどの辞書を引いても出ているのですが、「断然突出」の略と思い込んでいる人が少なくないようです。「凸」と思ったという声もちらほら。
俗用を多く載せる「日本語口語表現辞典」(研究社)には
だんトツ【断トツ】①首位を独走状態だ。②非常に、突出した。
とあり、《使い方》の一つに「断トツの1位」もあります。《解説》に
「圧倒的な」「絶対的な」という意味の「断然」と、「1位」という意味の英語「top」が組み合わさってできた「断然トップ」の短縮形である。
②「断トツ首位」のように、「断然」「非常に」と同様の意味で使用される。
などとあります。この②の使い方が広まって、トップという本来の意味が意識されなくなり、語源まで「断然突出」などと勘違いする人が増えているのかもしれません。逆にいえば、何の略かを知れば、「断トツの1位」というような表記は重複表現であり書き言葉などでは避けた方がよいと分かるということです。
「ダンボール」は「段ボール」と書く
「ダンボール」。カナカナ表記をあまりにもよくみかけるせいか、ダンボールが一つのまとまりの外来語のように思っている人がいる可能性がありますが、新聞では「段ボール」と書きます。
「ボール」は「ボール紙」のボールですが、「段」は「階段状」の段ということです。NHK「チコちゃんに叱られる」でも取り上げられていました。実はボール紙も、明治時代の日本人にboardがボールに聞こえたからということからの名称だそうです。
結果オーライが「結果往来」に?
「結果往来」。明鏡国語辞典第3版の巻末「利活用索引」に誤った表記の例として載っていました。こんな間違い、本当にあるのか?と半信半疑でネット検索すると、間違いを指摘するサイトのほか、まさに間違いのまま載ってしまっているサイトも少なからずありました。「往来」は「オーライ」、つまり「all right」の誤りです。でもいま「オッケー」というのが主流になったせいで「オーライ」が外来語だと認識できない人が増えているのかもしれません。
ちょっと違いますが、「ちゃぶ台」を「茶ぶ台」と書くのも、本来は「卓袱台」でありチャブは中国語の発音から来ているとされるので不適切でしょう(語源は食べるときの擬音からという異説もありますが)。さらにいえば、私は昔、スウェーデン発祥の家具の店「IKEA」を「池屋」と思っていて妻に笑われました。このような思い込みは他にもありそうですね。
「フリーの客」ってどんな客?
「フリーの客」。これ、「ふりの客」の誤りとしてよく取り上げられ、昔の毎日新聞の用語集でも誤用例として挙げられていましたが、実際に直した記憶はありません。「ふりの客」というのは「振りの客」と書き、なじみの客ではない、いわゆる「一見(いちげん)さん」と似たような意味です。
でも「ふりの客」にせよ「フリーの客」にせよ今はほぼ死語だろう、と思って検索すると、意外やキャバクラ関係で「フリーの客」が使われていました。実際にどういう使い方をするのか、ちょっと「客のふり」をして調査してみたいのですが、金と時間と勇気がないのでやめておきます。
【岩佐義樹】