「ツイッター」が毎日新聞に初めて登場したのは2009年。当初は「トゥイッター」表記が混在し「短文を発信・表示するサービス」などと長々しい説明がついていました。名称変更で激震が走る今、ツイッターの軌跡を新聞の表記や記事から振り返ります。
米ツイッター運営会社のイーロン・マスク会長は7月23日、「ツイッター」の名称を「X(エックス)」に変更すると発表しました。おなじみの青い鳥は「X」のロゴに置き換わり、親しみを感じていた人からは悲痛な声も上がっています。メディアとしては、これから「旧ツイッター」についてどう表記するか、しばらく手探りの状態が続きそうです。ここでは便宜上、ツイッターのままとします。
目次
初登場は2009年3月
毎日新聞のデータベース(東京本社版)で「ツイッター」を検索すると、最も古い記事は2009年3月20日のものでした。
米国の陪審員制度では法廷以外で裁判の情報に接することを制限されるが、インターネットの利用による違反が相次いでいる、という趣旨の記事です。この年の5月に日本で始まる裁判員制度との比較にも触れています。その内容にも古さを感じますが、記事中に<「ツイッター」と呼ばれるインターネットサービスを介して外部と情報を交わし……>という記述があります。いかにも全く定着していないことがうかがえる書きぶりです。
そう、最も古い記事は米国発でした。ツイッターが米国でサービスを開始したのは2006年、日本では2008年ですので、ニュースに出てくるのも米国の方が早かったということでしょうか。
2009年8月には解説コーナー「質問なるほドリ」に「『Twitter』って何?」という記事が掲載されます。「ツイッターは英語で『つぶやき』という意味」「140字以内で『つぶやき』を投稿」「どんな有名人でもフォローできる」という初歩的な内容から登録方法まで解説され、「怖がらず何かつぶやいてみてください」という言葉で締めくくられています。隔世の感があります。
読みや表記は今でこそ「ツイッター」で統一されていますが、当初は「トゥイッター」が混在していました。「トゥイッター」での検索結果は14件。全て2009年の記事で、以降は見当たりません。
記事の中でツイッターをどう説明するか。いわゆる「枕ことば」について当初の記事を調べると「短文を発信・表示するネット上のサービス」「ネット上で140字以内でつぶやくサービス」「『つぶやき』によるコミュニケーションサービス」「簡易版の会員制交流サイト」「簡易型ブログ」「ミニブログ」などなど――。今の感覚からすると冗長なものや、ちょっとズレているのでは?と感じるものばかりかもしれません。その後は「短文投稿サイト」という説明が長い間、使われてきたように思います。
震災・政治背景に急速に浸透
ツイッターの新聞デビューは初々しいものでしたが、その後の浸透のスピードには目をみはるものがありました。他のSNSと比べても、データベースでの検索結果はツイッターが10911件、フェイスブック(フェースブック)は3651件、インスタグラムは968件(7月末現在)と、記事に登場する回数は圧倒的なのです。
2011年3月の東日本大震災を機に通信手段としてのSNSが注目され、ツイッターは同年の総務省「情報通信白書」に取り上げられました。その後は、主に政治の舞台として紙面に登場するようになります。米国のトランプ前大統領は広報戦術でツイッターを駆使し、2016年の大統領選の際には日本でも毎日のようにニュースとなりました。
日本にも、多数のフォロワーを抱え、絶大な発信力を誇る政治家は多くいます。ツイッター上で政治家の公式的な発言がなされ、ニュースに引用されることも日常となりました。先の画像の鳩山由紀夫元首相もその一例と言えます。このような事情から、一般紙のニュースに登場しやすい性質であることは間違いありません。いつの間にか、新聞でツイッターという言葉を見かけるのは特段珍しいことではなくなりました。
リツイート、どう説明?
もちろん、いくら浸透したとしてもツイッターに触れたことのない人はたくさんいるわけですから、新聞では安易に何もかも説明を省くというわけにもいきません。「短文投稿サイト」という説明は、最近の記事でも見られます。ツイッター自体の説明はそれでよいとして、問題は他の用語、特に「リツイート」でした。
リツイートを一言で何と説明するかについては、最後(?)まで正解が見つからなかったように思います。「再投稿」「再送信」「転載」「転送」「引用」「引用・転送」「共有」「拡散」――。当初からいろいろな表現が試みられ、最近の記事でも割れています。特に説明していないケースも散見します。リツイートするのが自分のツイートか、他人のツイートかによってニュアンスが変わるという事情もあります。どれを取っても万全でない、「リツイート」だけで通じるようになればそれが一番……と思っていたら、今や言葉そのものが変わってしまうかもしれない事態となりました。ツイートに関してはマスク氏が「X’s」にすると提案したとか。リツイートはどうなるのでしょう。
ちなみに、こうした表記について校閲記者が指摘・修正提案するかはケース・バイ・ケースです。他の記事と比較して、傾向から逸脱する書き方であったり、ツイッターを知らない読者に不親切と感じたりする場合は、他の記事とそろえる、説明を補うなどの相談をすることもあります。
今や当たり前のようになった「ツイッター」「ツイート」「リツイート」にも歴史があります。歴史を積み重ねた言葉があっという間に消えてしまうのであれば、寂しい気持ちは拭えません。これからも言葉の行く末を見守りたいと思います。
【植松厚太郎】