2017年2月、日本新聞博物館(ニュースパーク、横浜市中区)でイベント「ニュースカフェ・校閲記者の手仕事」が開催されました。
講師役は、毎日新聞東京本社・校閲グループの大竹史也デスク。予定していた人数よりも参加希望が多く、会場を変更しての開催となりました。高校生らしき方から年配の方まで、さまざまな方が聴講に来てくださいました。
まずは新聞の校閲が出版の校閲とどう違うか、何人くらいの体制でやっているか、毎日の仕事の流れがどのようなものであるかについて説明がありました。
さらに新聞校閲では欠かせない用語集(ハンドブック)の紹介もありました。毎日新聞の社員しか持っていない「毎日新聞用語集」を各机に置いて実際に手にとって見ていただけるようにしたほか、新聞各社の用語集も勢ぞろいし、それぞれ見比べることができるようになっていました。
聴講の方から「朝日新聞の用語集で『ウォーキング』となっているが、毎日新聞では『ウオーキング』と書いている。実際の生活においてどちらの表記をとるのがよいか」という質問がありました。
大竹デスクは「内閣告示『外来語の表記』でもウィ・ウェ・ウォなどを認めている。新聞の用語のあり方は新しいルールをどんどん取り入れるというよりも後ろ向きなので、一般の生活ではなじみのある方でよいでしょう」と答えていました。
次に仕事で出合った例について、実際の直し入りゲラをプロジェクターで映しながらの解説がありました。「武将集団」→「武装集団」、「年収300円」→「年収300万円」などの誤字脱字の紹介では、笑いが起きる場面もありました。
文化庁の「国語に関する世論調査」などで話題になる「誤用」とされる慣用句などについては、大竹デスクから「真逆(まぎゃく)」という言葉を普段使うことがあるかという問いかけがありました。
「使う」で挙手された方が半数近くに上りましたが、大竹デスクは「『真逆』は『まさか』と読むこともできるため、校閲で『正反対』などに直すようにしている。それでも紙面に現れることが増えており、いずれ誤用とは言えなくなるかもしれない。言葉は変化していくものなので、校閲記者は本当は『これは誤用だ』とは言いたがらない。経験を積むほど『これはどっちなんだろう』と悩むようになっていく」と「誤用」問題のむずかしさを語っていました。
次に校閲作業体験が行われました。実際に使用されているのと同じ紙に間違いを埋め込んだ政治面(1面)を15分でチェックするというものです。
答え合わせになって大竹デスクが間違い箇所を赤字で記入した紙面を映すと、間違いの多さに驚きの声があちらこちらから上がっていました。埋め込まれた間違いは約20カ所あり、全て正解された方はゼロ。大竹デスクが「ある先輩が『全て指摘できないと0点』と先日言っていた」と話すと、「どうすれば間違いを見つけられるようになるのか」という質問が出ました。
大竹デスクは「半年まじめにやれば慣れてきて、数年あれば用語のルールも覚える。ただ、大先輩の言葉だが『校閲は何年やっても上達しない』。ベテランになっても集中力を欠けば失敗する。間違いを見つける上ではその場の集中力が一番大事」と答えていました。
最後の質疑応答では、「なぜ校閲記者になろうと思ったか」「固有名詞にルビを振る基準は」など多くの質問に大竹デスクが答えました。
日本新聞博物館の「ニュースカフェ」は現役の新聞記者が一般の方々とコーヒーを片手に触れ合う催しで、博物館が昨年7月リニューアルされてから今回が初の試みでした。今後もいろいろな職種の記者を講師役に同様のイベントを開催していく予定だそうです。
【田村剛、写真は横浜支局・水戸健一記者】
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