先日、大学で校閲の仕事について話す機会がありました。
何年か前にも同じようなことをした際に感じたのは、「校閲」という仕事の認知度の低さでした。それに引き換え、今回は昨年放映されたドラマ「校閲ガール」という心強い材料が。学生さんたちの前で、直しを赤ペンで書き込むと「ドラマと同じだ!」という感想もいただき、テレビの力を感じた一日でした。
わたしたちの仕事をわかってもらうために、実際にあった誤りに直しを書き込んだものをいくつかスクリーンで見てもらいましたが、一番反響があったのは、「校閲は文字だけを見る仕事ではない」ということです。
オニヒトデの形は?
ヒトデといえば思い浮かべるのは画像のような星形の生物です。編集者も当然のこととしてこの絵を使おうとしたのでしょう。
しかし、ヒトデの中でもオニヒトデは、この絵とはまったく違う外見なのです。もっと多くの腕を持ち、全体がとげに覆われています。
オニヒトデ by OpenCage
知識がある人が見れば一見して違和感を覚えるでしょう。編集者に話し、イラストは外して掲載されました。
この話をすると、学生からは「校閲の仕事は文字だけではないんですね」というものとともに「幅広い知識が必要なんですね」といった声がありました。
しかし、わたしはオニヒトデの見た目を知っていたわけではありません。もちろん知っているにこしたことはありませんが、記事にイラストや写真がついてくれば、それが正しいものか、記事と合っているかを調べるのも校閲の仕事です。
たとえば地図では、地名の正誤だけでなく、建物の位置や道路のつながり方、縮尺も確かめる必要があります。流星群を扱った特集ページでは、星座が描かれたイラストが付いたのですが、あるべき星がない、つながっているべき星がつながっていない、などの指摘もしました。
漫画も図表も
これは絵ではなく文字ですが、イラストにつく手書きの文字ならではの誤りです。一字一字なぞりながら確認しています。
記事にはしばしばこうした図もつきますが、もちろん校閲します。
留学生らを実行役、運び屋役に、万引きした商品を組織的に取引していたのではないか――という複雑な事件について報じた記事につけられた図です。「転送」は送られてきたものをそのまま別の所に送ることなので、ここでは単に送る意味の「送付」に直しました。
校閲の仕事は文字だけでなく、イラストなども含め、一読者として読んだとき、おかしいと思うことがないかどうか、というすべてに関してだと思います。学生の言うように「幅広い知識」があるのが理想ではありますが、すべての分野に精通することは簡単ではありません。
これからもし校閲をやってみたいという方に言えることがあるとするならば、そうした知識を得ようとする姿勢はもちろんですが、「ヒトデといえばこうした星形の生物である」といった「思い込み」を排除し、「違うかもしれない」と思う気づきが大切である、ということのように思います。
【水上由布】