「『マリアナ海峡なんてあったかな?』。読者コラム・女の気持ちをチェックしていたAさん(=同僚)が疑問。『マリアナ海溝』ではないかと出稿部に問い合わせて直る」
これは大阪本社校閲グループの連絡ノートから抜粋したものです。戦時中に父が乗艦していた空母が太平洋のマリアナ海溝で沈んだことについて、投稿者の年配女性が文中で触れていたのですが、「海溝」がなぜか「海峡」に化けてしまっていたのです。
コラムの担当者は「筆者からのワープロ打ち原稿では正しく書かれていたが、出稿するためにこちらで改めて打ち直した時、誤ったようです」と頭をかいていました。パソコンでの間違いといえば同音異義語の変換ミスが主流ですが、意外と多いのがこのように似た発音の別の熟語にうっかり打ち間違えるというもの。
字面から受ける印象では、うまく収まっているように見えるのが厄介なところ。変換ミスに気を取られていると、こちらの方で足をすくわれることが往々にしてあり、くせ者だと言えます。
同様の間違いで最近目にした主な例を次に挙げましたが、どこがおかしいでしょう?
「国産牛肉を偽造」
「テレビ座敷で観戦」
「災害を想定した実施訓練」
「議員のカラ主張疑惑」
「試合の指導権を握る」
「次戦に標準を合わせる」
「自らの信念を体験する」
「オスプレイ配備を痛切に批判」
「暴力団排除条例を適応」
「読者感想文」
この部分だけを取り上げると簡単そうに映るかもしれませんが、実際の紙面製作で時間に追われていたりすると、見逃してしまうことがあるのです。正解は順に「偽装」「桟敷」「実地」「出張」「主導」「照準」「体現」「痛烈」「適用」「読書」です。いずれも双方に同じ漢字が含まれているのが共通点で、紛らわしさを増幅させる一因かも。
お恥ずかしいことに、先日も日本維新の会関連の記事で「野田佳彦首長」となって初校、再校ともスルー。もちろん正しくは「野田佳彦首相」ですが、明らかな誤りであると同時に、そもそも「首長」が肩書として名前に付くところも変。確かに首相は内閣の首長ではありますが……。
点検用の最終ゲラ段階になってようやく気が付き、胸をなで下ろしました。地方自治体の長が率いる政党が花盛りの昨今、首長という言葉を見聞きする機会が増えたとはいえ、首相に取って代わろうと紛れ込んでくるとは全くの想定外。薄氷を踏む思いをする日々はまだまだ続きます。
【宇治敏行】