「幕間」をどう読むかについて伺いました。
目次
「まくあい」多数も大差はつかず
演劇などの第1幕と第2幕の間をいう「幕間」――どう読みますか? |
まくあい 37.1% |
まくま 30.6% |
本来は「まくあい」だが、「まくま」も許容できる 27.9% |
本来は「まくま」だが、「まくあい」も許容できる 4.4% |
本来の読み方とされる「まくあい」を選んだ人が最多で、「まくま」も許容するという人も含めると3分の2を占めました。しかし逆に、「まくま」を選んだ人と許容する人を合計するとこちらも3分の2近くに達しており、読み方の揺らいでいる語であることがうかがえます。
辞書の多くは「まくま」を誤読視
今回の質問のきっかけは、出題者の家人が「観劇友達には『幕間』を『まくま』って言う人が多いんだけど、本当は『まくあい』でしょ」とぼやいていたことでした。「まくま」かー。「間」の「あい」は常用漢字表にない表外訓なので、新聞の表記は「幕あい」となるため「まくま」と読む余地はありません。従って仕事で問題になることもなく、あまり考えたこともなかったのですが、この機会に調べてみることにしました。
国語辞典など辞書の類いで、「幕間」を「まくあい」と読むことに異論を示すものはありません。問題は「まくま」という読み方をどう評価するか、という点に絞られます。「まくま」ないし「まくあい」の項目に見られる説明を以下に列挙します。
・(記載なし=新明解国語辞典8版)
・「まくあい(幕間)」の誤読。(大辞林4版)
・「まくあい(幕間)」の誤読。(大辞泉2版)
・「幕間(まくあい)」の誤読。(集英社国語辞典3版)
・「まくま」と読むのは誤り。(現代国語例解辞典5版)
・「まくま」と読むのは誤り。(明鏡国語辞典3版)
・「まくま」は「幕間」の誤読から生じた言い方。(三省堂現代新国語辞典6版)
・「まくま」は文字に引かれた読み方とされる。(新選国語辞典9版)
・〔俗〕→まくあい。(三省堂国語辞典7版)
・「まくあい(幕間)」の俗な言い方。軽演劇の人たちの間で言われたものか。(日本国語大辞典2版)
・軽演劇や映画などで俗に「まくま」とも言う。(岩波国語辞典8版)
・「まくあい」に同じ。(広辞苑7版)
上から順に「まくま」に厳しい記述を載せているもの、あるいは載せてさえいないものです。ただし、「幕間」が誤読または文字に引かれた読み方であるという点は、ほとんどの辞書に共通しています。
広辞苑は「まくま」を認めたか
三省堂、日国、岩波は「まくま」を「誤り」ではなく「俗用」だと考えているようです。一部の業界に浸透した言い回しと捉えているのでしょう。日国には戦前のサトウハチローの用例などが載っています。「まくあい」が正しいとしても、堅苦しいことは言わずに文字のままに読むこともある、という感じなのでしょうか。
一方、広辞苑は独自の判断をしています。4版(1991年)、5版(98年)では「まくま」の項目の説明を「『まくあい』の誤読」としていたものを、2008年の6版からは「『まくあい』に同じ」として、「誤読」という評価を取り下げているのです(3版以前は記載なし)。文字の読み方に従った音訓であり、なおかつ誤解なく意味も伝わる以上、あえて誤りと評価するには至らないという判断かと思います。
正統的なのはやはり「まくあい」
とはいえ。NHKの「ことばのハンドブック」2版は「幕あい・幕間」の項目に「○〔マクアイ〕 ×〔マクマ〕」と読み方を挙げています。文化庁の「言葉に関する問答集3」(1977年)でも「芝居の世界では江戸時代から現在まで一貫して『まくあい』と言い、『まくま』とは決して言わない」としており、やはり正統的な読み方は「まくあい」であると言わなければなりません。そのうえで「まくま」をあえて使うか、許容するかどうかは、個人の好みによるというところでしょうか。
今回のアンケートの回答数は、3年半前に当ブログで「ことばアンケート」を始めてからの最多を更新し、5000件を超えました。観劇の好きな皆さんから多くのお答えをいただけたのであれば、出題者としてありがたくも喜ばしいことです。新型コロナウイルス感染症のせいで舞台には逆風が吹き続ける当今ですが、悪疫が収まって心置きなく舞台を楽しめる日が早く訪れることを、心から願っております。
(2021年06月01日)
「幕間」と書いて「まくあい」と読みます。意味は「演劇で、一幕が終わって次の幕が開くまでの間。まくのうち」(明鏡国語辞典3版)。「間」を「あい」とする訓は常用漢字表にない読み方なので、新聞などでは一般に「幕あい」と表記します――というのが通り一遍の説明です。
辞書を見ると、「まくあい」の項目で「『まくま』と読むのは誤り」(明鏡)と、はっきり「まくま」を誤りとするものもあります。また、「まくま」の見出し語を載せていても「『まくあい』の誤読」(大辞林4版)などと、事実上のカラ見出しとして「まくあい」に誘導するものもあります。
しかし一方で、広辞苑(7版)は「まくま」の項目の説明を「『まくあい』に同じ」としており、誤読視するのをやめています。岩波国語辞典(8版)は「まくあい」の項目で注記して「軽演劇や映画などで俗に『まくま』とも言う」と説明。どうも岩波書店は「まくま」に理解を示す傾向にあるようです。
出題者は、常識的には「まくあい」だろうと思っていますが、その常識も揺るぎないものとは言えないのかもしれません。皆さんはどう使うでしょうか。
(2021年05月13日)