空想の産物に「実物大」という言葉を使うことについて伺いました。
目次
「実物大ガンダム」に大半が「違和感ない」
「実物大ガンダム」――この書き方、変ですか? |
空想のアニメに「実物」は変 22.2% |
特に違和感はない 77.8% |
「実物大ガンダム」――この書き方、変ですか? この質問に対して「特に違和感はない」という回答が8割近くとなりました。
「設定通りの大きさ」と直したことも
今回の質問のきっかけはこの記事です(有料)。
https://mainichi.jp/articles/20241023/k00/00m/040/236000c
「万博会場に実物大ガンダム像」などの見出しが付いていました。
架空のアニメのロボット(ガンダムの場合は「モビルスーツ」)について「実物大」と書いて大丈夫か、気になりました。毎日小学生新聞に載せるときは、その懸念を編集者に伝えました。しかし、かつて使ったこともありましたが「等身大」という書き換えもさらに違和感がある気がします。
検討の結果、書き出しの文では「実物大」を削除し、後でカギカッコを付けて「ひざまずいた『実物大』ガンダム像はこれが初めてだそうです」と報じました。当事者が「実物大」と言ったり書いたりしていることもあり、伝聞スタイルの文なら許容範囲と判断しました。
「サンデー毎日」に連載中の「校閲至極」では、次の文章がありました。
ポケモンのミライドンに乗りたいという子どもたちの夢をかなえるトヨタ自動車の「トヨタミライドンプロジェクト」についての原稿を校閲した同僚が、「ほぼ実物大で再現されたトヨタミライドン」に違和感を持ち「ほぼ設定通りの大きさで」と直した。「架空」の生き物に「実物」があるといえるか。プロジェクトや子どもたちの夢を否定することはしないが、新聞記事は事実に即して書かれる必要がある。(2024年9月22-29日合併号「業務外でも空想 赤ペン持つ自分」)
監督は「1/1ガンダム」
「実物」とは何でしょう。明らかと思われますが、いちおう辞書を引いてみます。
【実物】(絵画・写真・見本・模型などに対して)実際の物。本物。「実物と写真とを比較する」
【実物大】実物と同じ大きさ。原寸。「実物大の模型」
(旺文社国語辞典12版)
ここで「実物大の模型」とある用例は、三省堂国語辞典8版にも載っています。この辞書は新語・新用法を多く取り上げることで知られますが、「実物大のアニメのロボット」などは採用しにくかったのかなと想像されます。「実寸大のロボット」という用例はあるのですが……。
ちなみに、「実物大ガンダム」は2009年のユーキャン新語・流行語大賞の候補に挙がっていました。その年、初めて東京・お台場に立ったガンダム像について「機動戦士ガンダム」の総監督、富野由悠季さんは「実物大」という言葉を使わず「1/1ガンダム」と写真集に書いています。これはプラモデルの用語でしょうか。
また、このアンケートに対する投稿でも「設定大 設定サイズ1/1 劇中サイズ相当 等が正しい」「より適切に言えば『実寸大』だろう」という声が上がりました。
最低限カギカッコは必要か
しかし、「実寸大」も辞書では「実物の寸法」(広辞苑)とあり、あまり適切といえないかもしれません。「実寸大」がより適切という先の投稿者も、「実物大」に対し普段の会話や文章で目くじらを立てるものではない、と続けています。別の投稿者からは
作品の中で大きさが設定されているなら、そのサイズで再現したものは実物大といえると思います。 バーチャル空間などに解釈を広げると、空想の産物でも実物大という体験ができるのが普通になってくるでしょう。
という意見も届きました。
今回のアンケートでは架空の物でも「実物大」ということに抵抗がない人が大半ということが分かり、「実物大」を使うことへの警戒感は少し減りました。ただし、できれば「設定通りの大きさ」にしたり、最低限カギカッコを付けたりする工夫も必要かもしれません。
以下は余談ですが、「実物大ガンダム 名古屋駅前」という動画があり、「名古屋にもあったっけ」と思ったら合成でした。本当にあると勘違いした人の投稿もあり、実物と虚像の区別がつきにくい時代に生きていることを示す「実物」と思いました。
(2024年11月25日)
「実物大ガンダム像」が大阪・関西万博会場に登場したというニュースがありました。以前にも似たようなゲースで「もとは空想のものなのに『実物』はおかしい」という読者の指摘を受けたことがあったのを思い出しました。
言われてみれば変と思う人も多いかもしれません。しかし「空想の産物でも、その設定通りに実物として再現した大きさと思えばいいのではないか」という考えがあってもおかしくないように思います。
ほかにも「実物大ゴジラアトラクション」など、アニメや特撮物の中から現実の世界に「実物大」をうたって現れた像はいろいろあります。みなさんはこの「実物」の語をどう感じますか。
(2024年11月11日)