この本は当サイトの「読めますか?」(一部は毎日新聞で2008年11月から2017年末まで「週刊漢字」として連載)から生まれました。
三つの特色をご紹介します。
目次
季節の難読語集
「去年今年」「薺」「卯の花腐し」「茅花流し」……これらの言葉を読めますか?
新聞には俳句、短歌の投稿欄があります。その中には普段の生活では使われない難しい季語が少なくありません。しかもその世界では当然知っているべき約束事として用いられているので、あまりルビが付きません。
一方、この「毎日ことば」のサイトでは、「読めますか?」として3択で漢字クイズを9年間、全2156問出題してきました。その中には季語もたくさんあります。
今回の書籍化に際し、漢字クイズの中から季節にちなむ言葉を厳選したうえ、それぞれの解説をエッセー風にまとめることになりました。目次ではルビなしの漢字を示しているので、漢字好きの方は、本文を読む前にどう読むかチャレンジしてはいかがでしょう。
本文では漢字の読みの正解率を示しています。もちろん、3択ですから当てずっぽうでも当たる確率は大きいのですが、意外な結果かどうかも含め楽しんでいただければと思います。
読めない語が読めるようになったら、ちょっと自分が知的に豊かになった気がします。そういう気分を味わっていただければ幸いです。
豊かな日本語の「くすぐり」
『春は曙光、夏は短夜』という題名をごらんになって、どうお感じになったでしょうか。
平安時代の清少納言『枕草子』の「春はあけぼの。やうやうしろくなり行く」「夏はよる。月の頃はさらなり」という冒頭の一節を思い出された方は、幸せだと思います。言葉を通して千年前の女性の見た光景が鮮やかに受け継がれているのですから。
この本の「はじめに」の冒頭から引きました。タイトルについては出版社との間でいくつもの案が出ては消えました。そのころ私の4歳の娘が、NHK・Eテレの番組「にほんごであそぼ」へのビデオ投稿をするため「はるはあけぼの、ようようしろくなりゆく……」とたどたどしい暗唱を繰り返していました。「これだ!」と思いました。
この本も季節の言葉を集めていて、春を代表して「曙光」、夏を代表して「短夜」という言葉をタイトルにすると決めたのです。
他にも、古事記や万葉集、百人一首、徒然草、芭蕉、漱石、虚子などさまざまな文学からちょっとずつ引き、これらの作品が築いてきた味わい深い日本語の一端を紹介しています。「くすぐり」程度かもしれませんが、この本が刺激になって、皆さんの言語生活がさらに豊かになればと願っています。
季節の間違えやすい言葉集
季節の美しい言葉に関する随想なら歌人や俳人が書くべきだと思いますし、事実、先行する多くの著作があります。そうではなく校閲者として書くからには、季節に応じた間違えやすい言葉を記すのは必然でしょう。
1月は「元旦」「弱冠」、2月は「小春日和」「建国記念の日」、3月は「三寒四温」「お内裏様」、4月は「はなむけの言葉」「新規まき直し」、5月は「こどもの日」「ハナショウブ・ショウブ・アヤメ」、6月は「青田買い」「『暫時』と『漸次』」――というように、毎年のように現れる要注意語を月ごとに「気をつけたい言葉」のページでまとめています。「蜜」「密」、「候」「侯」、「幣」「弊」など紛らわしい字への注意点も本文にあります。
季節の言葉をうたう本は数あれど、随所に校閲ならではの視点をからめた季節の言葉集というのは他にないと自信を持っています。ぜひ手に取ってお確かめください。
【岩佐義樹】