明鏡国語辞典の編集者に聞く
目次
「部長から寸志を賜る」は間違い
――明鏡は「こういう使い方は誤りだ」とはっきり書いているものが多いですね。
松岡さん 初版(2002年)から、言葉の正しい使い方を解説するということを大切にしてきました。今回も、誤用情報をかなり追加しています。
「気になる言葉」は教育現場などから
――そういった「誤りやすい例」はどうやって集めるのですか。
松岡さん 大修館は教科書も出しているので、営業担当者が中学・高校の先生方のお話をうかがうことがあります。そういうところでお聞きした先生方の「つぶやき」を生かしています。
正木さん さきほどの「寸志」も、「会計の書類で、お金をいただいたときに、費目に寸志って書いてあったんだけど、おかしいよねえ」というご指摘をいただき、第3版で取り上げました。
明鏡の編者の北原保雄先生による「問題な日本語」という本のシリーズがありますが、それも明鏡の初版を出した記念に、「今耳にする言葉で、気になるものを教えてください」というアンケートをきっかけに生まれたものです。
――「誤用」の扱いは辞書によっても差がありますが、言い切っていいのか悩むことはありませんか。
正木さん 悩みます。辞書はそれぞれ違う編者によって作られているものなので、違いが出ることがあるのですが、誤用については特に責任を感じます。明鏡では、言葉の変化を歴史的・文法的に見ている編者や編集委員が検討し判断するのですが、そのような専門家の検討した判断を読者に届けなくては、と思います。
例えば「切り崩す」。「貯金を切り崩す」というのは新しい言い方で、「取り崩す」との混同から生まれました。誤用とはいえないくらいに広まっています。
デザイン一新 読みやすく、探しやすく
――見た感じもがらりと変わりました。
松岡さん 2色刷りにして、デザインを一新しました。明鏡は誤用に詳しいというのが特色の一つですが、どこにどういう解説があるかぱっとわかるようにしてほしいという読者からの要望を受け、2色刷りを生かしました。読みやすく、探しやすくというのを一番に考え、見出しも含め文字をゴシック体にしています。用例は明朝体です。
松岡さん 明鏡には用例と語義が詳しいという特徴もありますが、特に解説が長い重要語句は語義を意味の近いグループごとに分けて、「仕切り」を入れて探しやすくしています。
正木さん デザインは、特に中高生に辞書を引いてもらうことを目標にして、いろいろと考えました。ふだん辞書を引かない生徒さんに引いてもらいたいという思いで作りました。
「引きにくい語」「引いてほしい語」を索引に
――明鏡は「誤用」の解説を探せるなど、索引にも特徴がありますね。
松岡さん 第2版で別冊になっていた索引は好評でしたが、なくしやすいという声があり、本体に組み込んでパワーアップさせました。
難読語を画数から引ける「難読語索引」、ABC順に引ける「アルファベット索引」と、誤用や、どこを引けばいいのか迷うような言葉からも引けるようにした「明鏡 利活用索引」です。
松岡さん 「明鏡 利活用索引」は用途別にアイコンをつけ、探しやすくしました。「×」や「△」のアイコンをつけたのは、間違った語句や表記からでも引ける索引です。「?」のアイコンをつけた項目はどこを引いたらいいのかわからない言葉を調べる時に役立ちます。たとえば「多いに越したことはない」。「越す」なのか、「ことはない」なのか、迷いますよね。そんな時に「越す」を見ればよいということがわかります。
松岡さん 以前、高校の先生が「何々と思いがちだ」の意味を調べてきなさいという課題を出したところ、生徒に「『いがち』は載っていませんでした」と言われた――という話をうかがいました。この索引を使えば、「思いがち」からも「がち」の項目にたどりつくことができます。
正木さん 明鏡では、ある文型やフレーズをまるごと解説することを初版から行っていたのですが、見出しに立っているとは気づかれず、引かれていないのではないかと考え、「引けない語索引」を作りたいとずっと思っていました。明鏡には国語辞典では普通は解説されないものがいろいろとあり、引いてほしいものを載せました。3版は見出し語は7万3000語になりましたが、それ以上の解説が入っていると思います。索引から、そういう解説に気づいていただけたらうれしいです。
松岡さん 版型を少し大きくするとともに、レイアウトを工夫して字詰めやフォントを変えて、1ページに入る分量を増やしました。第2版の別冊索引を含めると128ページ減ったものの、内容は増えています。
【まとめ・河村雄一郎】