毎日新聞社は、「毎日新聞用語集2020年版」(アマゾン・キンドル、990円)を発売しました。
目次
記者必携、“日本語との格闘”の結晶
新聞社・通信社は「用語集」「記者ハンドブック」「用語の手引」といった名前で、表記の統一、誤りやすい言葉、報道で必須の情報などをまとめた本を各社で作製しています。誰にでも分かりやすく誤りのない新聞をつくるため、各社が日本語と格闘してきた努力の結晶がこの用語集です。
入社時に記者全員に配布され、取材記者はこれを手元に置いて記事を執筆し、校閲記者は左手に用語集、右手に赤ペンを持って原稿をチェックします。
どこでもすぐ見られる電子版
文章を読みながら、あるいは書きながら、適切な表記を確認しようと紙の用語集で目当てのページを探すのは正直面倒ですが、全文検索なら一瞬で調べられます。日本語表記のスタイルなどを示す類書の中で、全文検索ができるのは毎日新聞用語集2020年版しかありません。
そもそも、分厚い本を手元に置かずにパソコンやスマートフォンなどでどこでも調べたり読んだりできる一般向けの電子版用語集は、新聞社・通信社のなかで唯一です。
インターネットを通じ「新聞の日本語」を積極的に発信している私たち毎日新聞校閲センターが一般向けにつくる用語集だからこそ、どこでも読める電子版であることや使い勝手にこだわりました。
さまざまな原稿の執筆や仕事での連絡、SNSでのコミュニケーションなど、きちんと伝わる適切な文章を書かなければならない機会は多くあります。携帯端末やパソコンから、一般の皆さんにも気軽に役立てていただけるはずです。
また、毎日新聞用語集の工夫として、紛らわしく間違いやすい用語や表記、地名などをまとめてあります。校閲者が常識としている雑学的知識も読んで楽しみながら得ることができるでしょう。
明解な同音異義語の使い分け
例えば「酒をたつ」「消息をたつ」は「断つ・絶つ・裁つ」のどの表記がよいでしょうか。
日本語には同音異義・異字同訓の語が数多くあり、「ズボンを履く」(→穿く・はく)「政治資金規制法」(→規正)のように誤りがちなものも多くあります。
毎日新聞用語集2020年版の「用字用語集」を見れば適切な使い方が一目瞭然です。
たつ
断〔打ち切る、分断する、遮る〕快刀乱麻を断つ、絆を断つ、公害を断つ、後続を断つ、国交を断つ、酒を断つ、雑念を断つ、酒色を断つ、食事を断つ〈信仰・修行の場合〉、退路を断たれる、断ち難い思い、断ち切る、茶断ち塩断ち、通信線を断たれる、手足を断つ、電源を断つ、(電気・熱の)伝導を断つ、…の道を断つ、反撃を断つ、補給路を断つ、水を断つ
絶〔絶える・絶やす、途中で切れる・やめる〕悪縁を絶つ、後を絶たない、跡を絶つ〈消息〉、命を絶つ、禍根を絶つ、交際を絶つ、消息を絶つ、食事を絶つ〈主に療養の場合〉、通信・連絡を絶つ
裁〔裁断〕裁ち板、裁ち方、裁ち台、裁ち縫い、裁ちばさみ、裁ち物、服地を裁つ
毎日新聞用語集2020年版「用字用語集」より
このほか、常用漢字表にない漢字を使った難しい語の言い換えなど大量の表記の例が並べられ、検索にうってつけです。用語集で一番ページ数の多い部分です。
誤りやすい表現・表記を列挙
「元旦の夜」「新人選手が1軍に帯同する」。どちらも問題がある表現ですが、わかるでしょうか。
「元旦」は元日の朝のことですから、「元日の夜」とするのがよいでしょう。また、「帯同する」は「(部下などを)一緒に連れていく」「同行させる」ことが本来の意味ですので、「新人選手を1軍に帯同する」などとするのが適切です。
元旦の夜→元日の夜
「旦」は「夜明け」「朝」の意味毎日新聞用語集2020年版「誤りやすい表現・慣用語句」より
帯同→「(部下などを)一緒に連れていく」「同行させる」ことが本来の意味。「新人選手が1軍に帯同する」→「1軍が新人選手を帯同する」「新人選手が1軍に同行する」
毎日新聞用語集2020年版「誤りやすい表現・慣用語句」より
このような誤りやすい表現・慣用語句のほか、間違いやすい漢字表記、紛らわしい地名表記について説明した章も設けられ、“校閲者の常識”が効率よくまとまっています。
自首と出頭 「自首」は刑事事件の発生がまだ捜査機関に知られていないか、知られた後でも容疑者が特定されていない段階で、検察官、警察官に犯罪事実を自ら申告し、訴追を求めること。刑法上、刑の減軽事由となり、内乱予備・陰謀など特別の場合には刑の免除事由となる。
容疑者が特定された後で名乗り出た場合は自首ではなく「出頭」とする。出頭の場合、裁判で情状の対象となることはあるが、法律上の刑の減軽事由にはならない。
親告罪では、告知の相手が捜査機関でなく告訴権者(多くは被害者)であるときも自首と同様に刑の減軽事由となる。毎日新聞用語集2020年版「紛らわしい裁判・法律用語」より
〔東京都〕
青戸(あおと) 葛飾区の地区名。京成電鉄駅名は「青砥」阿佐ケ谷(あさがや) JR中央線駅名、中学校名。杉並区の地区名は「阿佐谷南」など
伊豆諸島(いずしょとう) 「伊豆」とつき、静岡県の所管時代もあったが現在は東京都。八丈島、新島、三宅島など
市ケ谷(いちがや) JR中央線・東京メトロ・都営地下鉄駅名、地域名。新宿区の地区名は「市谷砂土原町」など
井の頭(いのかしら) 公園名、三鷹市の地区名。京王電鉄駅名も「井の頭公園」。小学校名は「井之頭」、街路名は「井ノ頭」
毎日新聞用語集2020年版「紛らわしい地名」より
「辞職と辞任の違い」なども解説
辞職と辞任の違いが説明できるでしょうか。毎日新聞用語集2020年版の「紛らわしいことば」は、このような混同しやすいことばについて解説しています。
辞職と辞任 「辞職」は職を辞めることで、同時にその職場を離れる場合が多い。「辞任」は役職を降りることで、勤め先を去るとは限らない。閣僚が退くのは「辞任」で、議員を辞めない場合は「辞職」ではない(内閣「総辞職」は憲法上の固定表現で別)。地方自治体の首長は、議員と同様「辞職」となる。幹部官僚や会社役員が「辞任」するような場合、同時に省庁や会社を去ることが分かれば「辞職」と書いてもよい。
毎日新聞用語集2020年版「紛らわしいことば」より
このほか外国地名一覧、助数詞の基準、記号の使い方、中国簡体字の書き換え、歴代首相名など役立つ情報が満載です。「毎日ことば」で取り上げている内容も多く盛り込まれています。
ぜひ一度ご覧になってみてださい。
谷崎推薦「スタイル・ブック」の伝統
作家の谷崎潤一郎は、文章の書き方、読み方を分かりやすく記した「文章読本」(初版1934年、中央公論社)で以下のように記しました。
大阪毎日新聞社では、自分の社の新聞に用いる宛て字や仮名使いの法則を定め、スタイル・ブックと題する小冊子を編んで、社員や関係者に配ったことがありましたが、あれはなかなか実際的で、穏当な意見であったと思いますから、あれを入手される御便宜がありましたら、御参考までに御覧になることをおすすめいたします。
この小冊子こそ「毎日新聞用語集」の前身です。
現在の用語集の表記基準は、長年の蓄積に加え、国の国語政策、マスコミ各社の用語担当者が定期的に話し合う日本新聞協会の用語懇談会を通じて鍛えられた内容を基本としています。まさに「実際的で、穏当」という性質を引き継いでいるといえるでしょう。
毎日新聞用語集2020年版は、お手元のスマホ、パソコン、タブレットにダウンロードし、大いに活用していただけることを確信しています。
◇コメントありがとうございます
検索できるって最高、即Kindleで購入。
いつも表現や漢字変換に迷っては、ググって上に来たものを是としてきたけど、言葉の意味において知恵袋あたりはあんまり信用できないと感じていたので助かる。 https://t.co/YNyohPakhy— たまはうす of Tsushima (@idetam) September 27, 2020
Kindle Unlimitedなら無料で読める!
ひがな一日読んでいられる、楽しい本です(^^)(人による) https://t.co/5T8ETMa4L4
— 福田満雄│ライターまんぷく♐ (@skmplife) September 25, 2020
さっそく、GET! 検索あるのは、楽だなあ。あれ?どっちだっけ、というように表記が不安な時には、とても助かる。 https://t.co/AwQcMRQexB pic.twitter.com/tSNFnWAWsr
— hoshirokuman (@hoshirokuman) September 26, 2020