「コロナ禍」に似た「コロナ渦」という表記について伺いました。
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8割超が「渦」許容できず
最近よく見る「コロナ禍(か)」。ネット上では似た使い方で「コロナ渦」と表記されるものも見かけますが、「渦」の表記も“あり”でしょうか。 |
「コロナ渦」も“あり” 15.6% |
「コロナ渦」は“なし” 84.4% |
8割以上の人が「コロナ渦」をなしと答えました。やはり違和感がある人の方が圧倒的に多いと言えます。
「戦渦」は“例外”か
出題時の解説にも書きましたが、「コロナ渦」をありとする人は、「戦禍」とともに「戦渦」という言葉があることも例に、「災い」と「混乱」で違う意味の言葉だととらえている場合が多いようです。では「戦渦」のような言葉は他にもあるのでしょうか。
デジタル化されている辞書では、「見出し語の後方一致検索」などの機能で「渦」で終わる言葉を探すことができますが、実際の「うずまき」と違い比喩的に「混乱」を表す言葉は、ほとんど「戦渦」しか見つかりません。
日本最大の50万項目を誇る日本国語大辞典でも、「戦渦」以外で混乱の意味を含む「〇渦(か)」は、「激しくめぐる渦。また、大きな混乱」という「旋渦(せんか)」と、「大きな渦まき。また、大変な混乱状態」という意味の「大渦(たいか)」しかありませんでした。名詞の語尾に「渦」がついて「〇による混乱」という意味になる言葉は、実際にはこれまで「戦渦」くらいしか使われてこなかったということになります。
造語を形成しやすい「禍」
では後ろに「禍」がついて「〇による災い」という意味の語を同じ辞書で探してみるとどうでしょうか。
あ行から一部を拾ってみるだけでも(意味は省略します)、艶禍、患禍、口禍、黄禍、交通禍、史禍、女禍、水禍、赤禍、舌禍……など今ではあまり使われない言葉も含め多数見つかります。過去の新聞紙面では、(麻薬性物質の)オピオイド禍、アスベスト禍など辞書では見つからないさまざまな「〇禍」も出てきていました。
「〇禍」には非常に多くのバリエーションがあり、「禍」はカタカナ語も含めいろんな言葉と結びついて新しい表現をつくりやすいということです。今回「コロナ禍」という表現が自然に受け入れられているのも、そういった背景があるためでしょう。
それに対して「〇渦」という言い方を同列に考えるのは難しいと考えます。混乱という意味はつながりそうですが、「〇渦」のような形で、ほかの語と結びつけて造語される慣習はほとんどなかったといえるので、多くの人に違和感を持たれるのも無理のないことではないでしょうか。
「コロナ渦」は通じにくい
コロナ渦も“あり”という回答をした人が20人中3人程度の割合だったことは、思ったより多い感じがしました。「〇禍」という表現が今ではやや時代がかったものになり、なじみが薄くなっていることも影響しているような気がします。
とはいえ、それでも「〇禍」は「禍」でなければおかしいと感じる人が圧倒的に多く、仮に混乱という意味を込めてあえて「〇渦」を使ったとしても、読者には伝わりにくいうえ、書き間違いだと思われたりすることは避けられません。
最近あちこちで見かける「コロナ渦」。渦(うず)じゃありません! 禍(わざわい)が正解です。正しい読み方の「ころなか」ではまず変換されないので、「ころな」「わざわい」と分けて入力・変換しましょう。https://t.co/daXak2i0jI
— 毎日新聞 校閲センター (@mainichi_kotoba) May 22, 2020
やはり多くの人に読まれる文章では「コロナ渦」という表記は「誤り」と判断せざるを得ないと考えます。「混乱」の意味を強調したい場合は、表現を工夫する必要があるでしょう。
(2020年08月21日)
近ごろよく目にする「コロナ禍」。新型コロナウイルスによる感染症にとどまらず、社会不安や不況までを含む「わざわい」という意味で使われることが多いようです。
その「わざわい」を意味する「禍」を誤って「渦」としたと思われる「コロナ渦」という表記が散見されるとサイトで取り上げたところ、「戦禍」(戦争によってこうむるわざわい)と「戦渦」(戦争によって起こる混乱=ともに三省堂国語辞典7版)両方の言葉があるのを例に、「コロナ渦」も間違いではないのでは、という反応が意外に多くありました。
「コロナ禍」は新しい言葉でありそれが正しいとは決められない、「コロナ渦」は「コロナ禍」と意味が違う、自分は意識して「コロナ渦」を使っている、などと考える人もいることがうかがえます。
そのせいなのか、ツイッターなどで検索してみると「コロナ渦」の表記は多数に上り、なぜか「コロナ禍」と混在しているものも少なからず見つかります。「コロナ渦」を許容できる、あるいは選んでいるという方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。
(2020年08月03日)