防犯カメラに「うつる」という場合に、どう表記するか伺いました。
目次
「映」が3分の2弱を占める
犯行が防犯カメラに「うつっていた」――どう書きますか? |
写っていた 28.9% |
映っていた 64.3% |
上のどちらでもよい 6.8% |
防犯カメラに「うつる」という場合には「映」を使うという人が全体の3分の2近くを占めました。新聞社や通信社でも見解が分かれる用字ですが、毎日新聞社も採用している「映る」が多数を占めたことに少々ほっとしております。
「写」と「映」 意味の違いは分かりやすいが…
回答から見られる解説でも引きましたが、「うつす/うつる」について毎日新聞用語集は、「写」の意味を「〔文書や絵、写真などを〕写し取る」とする一方で、「映」の意味は「〔映写、反映〕」と説明しています。出題者としてはこれを、「写」は似姿をつくる感じ、「映」はオリジナルをかたどった像が現れるという感じ、と捉えています。
こうした使い分けは一般的なものと考えられ、字義の違いは分かりやすいものです。ただし、円満字二郎さんの「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)でも「《写》と《映》は、もともとの意味はかなり異なるが、写真やビデオの場合には、使い分けがまぎらわしい」とされるように、場合によっては使い分けに悩むことになります。
円満字さんは同書において「『子どもの発表会をビデオで写す』と『子どもの発表会のビデオを映す』の違いであり、それぞれ、『写し取る』と『映し出す』に置き換えると、判断しやすい」と言います。しかし、防犯カメラの場合はどうでしょう。「犯行が写し取られていた」のか「映し出されていた」のか。
「撮影」と「画像の確認」が同時に行われる場合
文化審議会国語分科会の報告「『異字同訓』の漢字の使い分け例」(2014年)は「うつす・うつる」の項目で、「ビデオに写る」「ビデオを映す」という例を挙げつつ、詳しく注記しています。引用すると以下の通り。
「ビデオに写る」は,被写体として撮影され、画像として残ることであるが、その画像を再生して映写する場合は「ビデオを映す」と「映」を当てる。「ビデオに映る姿」のように、再生中の画像を指す場合は「映」を当てることもある。また、防犯ビデオや胃カメラなど、撮影と同時に画像を再生する場合も、再生する方に視点を置いて「ビデオに映る」と書くこともできる。
「撮影と同時に画像を再生」というのはちょっと分かりにくく感じますが、要するに撮影中の画像が常にモニターで見られる状態になっている、ということでしょう。このようにカメラで撮影する営みと撮影画像を確認する作業が一体的と考えられる場合には、「防犯ビデオ」や「胃カメラ」に「映る」と書くことも不自然でない、というわけです。
新聞・通信社も多数派は「映」
新聞・通信7社の用語集のうち、「防犯カメラ・ビデオに映った人物」などとして「映」の字を採用しているのが5社(毎日、読売、朝日、日経、時事)、「写」を採用しているのは2社(産経、共同)でした。いずれの表記でも誤りになるわけではありませんが、今回のアンケートの結果を見るに、防犯カメラの場合には「映る」と書くのがなじむと考えられているようです。
校閲記者としては、よくお世話になる共同通信の記事の表記と、毎日新聞として採用している「防犯カメラに映る」という表記が異なるのが気になっていたのですが、毎日ルールの方が読者の方にとって違和感の小さいものと考えられ、安心できる結果となりました。
(2020年08月18日)
「うつす/うつる」というのも、漢字で書き分ける場合に迷うことの多い言葉です。毎日新聞用語集は「写」について「〔文書や絵、写真などを〕写し取る」とまず挙げる一方で、「映」については「〔映写、反映〕」と字義を説きます。
「写」の用例は「写りのいいカメラ、経典を写す、答案を写す」といったもので、「映」の方は「映りの悪いテレビ、鏡に顔を映す、テレビに映る」など。イメージとしては「写」は似姿をつくる感じで、「映」はオリジナルをかたどった像が(場合によっては幾つも)現れるという感じでしょうか。
そうした差を踏まえた上で質問文に戻りますが、「防犯カメラにうつっていた」という場合にはどう書くか。カメラで写し、モニターに映る、というのが通常のプロセスだろうと思います。ただ防犯カメラのように、映像をモニターで確認することが前提とされているような器具の場合は、カメラとモニターをワンセットと考えて「カメラに映っていた」とする書き方もあり得るかもしれません。
実は毎日新聞用語集には「防犯カメラに映る」という用例があります。一方で共同通信の用語集には「(防犯)カメラ・ビデオに写る」との用例が見られます。見解が割れる言い回しですが、皆さんはどちらを選んだでしょうか。
(2020年07月30日)