「○○立国」のような言い方をどう受け止めるか伺いました。
目次
受け止め方は割れる
「観光立国」というのはどういうことでしょうか |
観光で国を盛んにすること 45.4% |
観光産業が盛んな国のこと 37.8% |
上のいずれも指す 16.7% |
国語辞典に載る意味に沿う「国を盛んにすること」が最多でしたが、「国のこと」とした人との差は8ポイント足らず。「いずれも指す」を含めると、どちらの意味も過半数の人が認めているという結果になり、言葉から受け止める内容が人によって異なるようです。
辞書の意味は「国を繁栄させること」
「立国は私なり、公に非(あら)ざるなり」とは福沢諭吉「痩我慢の説」の書き出しですが、「立国」という言葉がこのように単独で用いられることは、今はほとんどありません。福沢の言う「立国」は「新しく国家を建設すること。建国」(岩波国語辞典8版)の意味と考えられますが、今の日本でそうした意味で使われることはまずないでしょう。
現在では「立国」という言葉はもっぱら「ある考え・仕方で国を繁栄させること。『工業―』」(同)という意味で使われているはずです。辞書の用例「工業立国」は「工業で国を繁栄させること」と言えます。同様に、アンケートで例に挙げた「観光立国」は「観光で国を繁栄させること」のはずです。
「○○で国を立てること」が「○○で立つ国」に
しかし、実際の用例には以下のようなものが見られます。「パラオは観光立国だ」「貿易立国の日本にとって重要な問題」「日本が科学技術立国として生きていけるように」「観光立国として日本が生きていくとき」――などなど。6月の安倍晋三首相の記者会見でも、コロナによる移動の停滞について「島国の貿易立国、日本にとっては、致命的であります」というくだりがありました。これらはいずれも「○○立国」という言い方で、「○○が盛んな国」「○○を主な産業とする国」という意味で使われているようです。
国語辞典にない言葉の使い方ですが、こうした用法を見て出題者は「募金」という言葉を思い出します。募金も、そもそもは「金を募る」という語形であって「金を集めること」という意味でしたが、現在ではしばしば「集めた金」の意味で使われます。「立国」もそもそもは「国を立てること」であり「○○立国」は「○○でもって国を立てること」を意味するものでしたが、いつしか「○○で立つ国」へと意味が広がってきたようです。
「○○立国」は理念の問題
「観光立国推進基本法」には「観光立国の実現」という言い回しが繰り返し現れます。この場合は「観光で国を盛んにすること」と受け止めて問題ないでしょう。「観光立国」の中身は、観光旅行の促進を通した地域社会の発展▽観光による健康的でゆとりのある生活▽国際相互理解の増進とこれを通じた国際平和――などであって、観光を通じて物心両面で豊かな社会を作ることとでも言えばよいでしょうか。
「観光立国」はこうしてみると理念の問題であって、単に「観光産業の盛んな国」と受け止めてしまうと、その奥行きをつかみ損ねる感じはあります。それはおそらく、観光に限らず「○○立国」という形について、共通して言えることでしょう。言葉を使う側も、単に国のこととして「○○立国」という言葉を使うのは慎んだ方がよさそうです。書き方としては「観光立国の日本」などとするのではなく、「観光立国を掲げる日本」のような形にするのがよいだろうと考えます。
(2020年06月30日)
「立国」という言葉は、文字通り国を立てること、すなわち建国の意味で使われることもありますが、それ以外に「ある基本的な方針のもとに、国を発展・繁栄させること」(大辞泉2版)として使われます。「科学技術立国」といえば科学技術で国を盛んにすることです。ちなみに毎日新聞では「幻の科学技術立国」という連載がありました。
最近では「観光立国」という言葉もよく目にします。日本の場合は、海外から大勢の観光客を呼び込んでお金を使ってもらい経済の発展につなげること、というほどの趣旨で使われることが多いようです。2007年施行の観光立国推進基本法の理念には、もう少しいろいろと書いてあるのですが。
しかしこの言葉が「観光立国になる」「観光立国のモナコ」のように使われるのを見ると、「観光による立国」ではなく「観光の盛んな国」を意味しているように読めます。こうした使い方には戸惑いもありましたが、うまく直せないことも多く、なし崩し的に許容しつつあるのが現状です。もはや普通の使い方になっているのかもしれないと思い、この場を借りて伺ってみます。
(2020年06月11日)