「球団」といったらプロ野球チームに限るか、あらゆる球技の組織を指すか伺いました。
目次
4分の3は「プロ野球」を選択
「球団」といったら何のことですか? |
プロの野球チーム 75.5% |
野球に限らずプロ球技のチーム 24.5% |
プロの野球チームを指すと回答した人が4分の3を占め多数派となりました。球技といえば野球、という時代が過ぎても「球団」を他のスポーツにまで拡張して使う人は少数派でした。
戦前は「野球団」が使われる
「球団」という言葉が定着したのはそれほど古くないようです。確認できた最古の用例を載せる精選版日本国語大辞典にあるのは1950年の坂口安吾「投手殺人事件」のもの。
国立国会図書館の資料を検索してみると、戦前の使われ方は大多数が「野球団」で、「球団」は数えるほど。「一高野球団」など学生野球チームにも使われ、プロならば「職業野球団」となります。また「庭球団」「蹴球団」などと他スポーツのチームを表現するものも見られ、野球が特別だったわけではありません。
プロ野球人気とともに根付く「球団」
戦後にはプロ野球チームを指して「球団」と書くものが増えてきます。40年代後半の「ベースボール・マガジン」「少年ベースボール」などの雑誌に「八球団選手一覧表」「毎日球団をめぐって」といった見出しが見つかります。
「文芸春秋」49年11月号の「日本野球白書」(吉田要)は、「ファンは年々その数を増し、この調子ではどこまで増えてゆくか判らない」というプロ野球人気の中で、当時の1リーグ8球団から「球団を増加せよ!との気運が非常に高まってきて、日本野球連盟、球団代表者間に大きなショックを与えている」と記しています(「『文芸春秋』にみるスポーツ昭和史 第1巻」より)。日国精選版の用例の時期にも近く、このプロ野球隆盛期に「球団」とはプロ野球チームのことだという認識が定着したと思われます。
辞書では59年の新言海に「野球団の略。野球の団体」として(プロという限定はありませんが)載っています。広辞苑では55年の初版にはなく、69年の2版に「職業野球を事業とする団体」と掲載されています。
近年は多様化の兆しも
その後のプロ野球は人気のとどまるところを知らず、数十年、人々の日常の中にありました。94年の優勝を懸けた中日と巨人による「10・8決戦」は視聴率48・8%を記録しています(ビデオリサーチ調べ)。
しかし平成の時代が進むにつれ、地上波テレビでのプロ野球中継は激減。令和を迎えた2019年の日本シリーズでは視聴率1桁も記録されました。よく言われる「娯楽の多様化」「野球離れ」は否定できません。
回答時の解説では、岩波国語辞典が8版で「球団」に「他のプロの球技にも言うことがある」という注釈を追加したことに触れました。その少し前に出版された大辞林4版でも「プロの球技チーム。バレーボール・バスケットボールなどのプロチーム」という二つ目の意味が追加されました。
また普通は「野球が始まる季節」(三省堂国語辞典7版)とされる「球春」について、デジタル大辞泉の補説には「近年、サッカーのJリーグについても用いられることがある」とあります。「球」は野球に限らない、という流れは仕方のないものでしょう。
それでも「球団」はプロ野球に
それでも(野)球場に足を運ぶ人は増えています。昨年はセ・パ両リーグとも過去最多の観客動員を記録しました。野球人気は根強いのです。半世紀にわたって娯楽の王様として君臨したプロ野球が「球団」を独占しても、まだ許されるのではないでしょうか。
今回のアンケートの結果を見ても、野球以外で「球団」を使うと違和感を与える可能性が高そうです。ツイッターでは「Jリーグでは『球団』と表記しないと公式に定めている」という情報も頂きました。各競技の実態も踏まえ、「クラブ」「チーム」などとするのが現在のところはよさそうです。
(2020年03月03日)
米バスケットボールNBAのロサンゼルス・レーカーズで活躍したコービー・ブライアントさんが事故で亡くなった時のことです。関連記事に「球団を5度優勝に導き……」といった表現がありました。
「球団」とは三省堂国語辞典(7版)によると「野球団」を縮めた言葉で、「プロ野球のチーム(を持つ団体)」のことで、他の競技には使えなそうです。というわけでひとまずここは「チームを5度優勝に導き……」と直しました。
しかし後で、2019年に出た岩波国語辞典(8版)を引いてみると「他のプロの球技にも言うことがある」という注釈が新たに追加されておりびっくり。NBAのチームを「球団」ということも許容されうるのかもしれません。
「球春」「球界」などなど、球とあるだけで野球のことを指すという特権的な野球の地位が崩れつつあるのでしょうか。皆さんの意見を伺いたいと思います。
(2020年02月13日)