「n倍増」のような「倍増」に数字が付いた表現について伺いました。
目次
最多は「50%増」でしたが…
「1.5倍増」と言ったら、元の数字からどれだけ増えたことになりますか? |
50%増えた 54% |
150%増えた 30.3% |
上のどちらにも取れる 15.7% |
一番多かったのは「50%増」で半数を超えましたが、圧倒的というほどではありません。「150%増」「どちらにも取れる」という人を合わせると46%を占め、半数に迫っています。こちらの思惑としては、大方が「50%増」を支持してくれることを期待していたのですが、そうは問屋が卸さなかったようです。表現の仕方を検討する必要があります。
「倍増」の捉え方
「倍」とは「ある数量を二つ合わせた数量。二倍」(日本国語大辞典2版)で、「倍増」ならば「二倍にふえること。倍ましに加わること」(同)です。つまり「倍増=2倍増=2倍に増えること」。この関係から考えれば「1.5倍に増えること=1.5倍増」であって、「1.5倍増」と書けば「50%増えた」のだと受け取ってもらえるだろう――というのが当方の想定でした。
しかしアンケートの結果は、必ずしもそう受け取ってはもらえないことを示しています。もしかすると「倍増」という言葉自体が、「倍に増えること」ではなく「1倍分、増えること」と理解されているのかもしれません。「3割増」「120%増」などとある場合には「3割増えること」「120%増えること」を意味します。
実を言うと「一倍増し」という言い回しも存在し、意味は「二倍にすること。二倍。倍増し」(同)で、「倍増」と同じ。日本古典文学全集(小学館)の黄表紙の巻には「かみ様の三百両は一倍増(まし)の六百両に増えければ差し引きなし」(「江戸春一夜千両」)という例が見られます。「倍増」を「一倍増し」と同じように捉えるなら、「1.5倍増」は「一倍増し」よりも多く、「150%増し」になりそうです。
紛らわしいこと自体が問題
実態として、「3倍増」「5倍増」などの言い回しはよく使われており、それらはいずれも「3倍に増えること」「5倍に増えること」という意味から外れることはありません。一定のルールにのっとって運用されていることに理解が得られるなら、問題のない言い回しであると考えます。
ただし、あくまでも「理解が得られれば」であり、今回のアンケートの結果が示すように読者が誤解する余地があることを前提にするなら、無条件に使ってよいと考えるのは難しいでしょう。日本新聞協会の用語に関する会合でも「誤解を与えかねない」として使わないようにしている社がありました。
そもそも「1.5倍増」ならば、単に「1.5倍」でよいという考え方もあります。一方で、企業の業績やスポーツ選手の年俸など、増えたか減ったかが問題になる記事において、「増」「減」の文字を使わずに表現することは不親切だという考え方もあるでしょう。「n倍増」のような言い方を一律に排除する必要はないと考えますが、「n倍」の元になる数字をはっきりさせて誤解の余地のない形で使うなど、一定の条件のもとに使うのがよさそうです。
(2020年02月28日)
昨年の日本新聞協会の用語に関する会合で、ある社から「『5倍増』というと5倍に増えるのか、増えた分が5倍なのか、はっきりしないという指摘を受けた」という声が出ました。各社の意見では、特に取り決めはしていない社が多かったのですが、誤解を避けるため「使わないようにしている」という社も。
「倍増」と言ったら、増えて「倍=2倍」になることだから、それに数字nが付いたとしても「n倍になること」と捉える。質問の場合では「1.5倍」になるのだから「50%増えた」である――出題者はこう考えますし、毎日新聞でもそのように運用されています。しかし先日、記事中の「前日の約1.6倍増」というくだりに「1.6倍増だと前日の260%(160%増えた)ということになるのでは?」という疑問が出て、「約1.6倍」とする場面がありました。
今でも「n倍増」は、数量が増えて「n倍」になること(だから「0.7倍増」などとはしない)だという考えに変わりはないのですが、上のようなことが繰り返されると不安になります。皆さんも同じように考えているなら安心して「n倍増」を使えるようになると思うのですが、果たして当方と考えは一致するでしょうか。
(2020年02月10日)