気温が0度を下回ったときの表現について伺いました。
目次
「マイナス」が最多も半数に届かず
気温が0度を下回りました。どの表現を使いますか? |
氷点下○度 36.2% |
零下○度 14.8% |
マイナス○度 49% |
「マイナス」が最多でしたが半数に届かず。日常的にはカタカナ語が使いやすいということかもしれませんが、漢語も避けられているわけではなさそうです。漢語では「氷点下」の方が「零下」より使われています。新聞・通信社の多くは、気象関係では主に「氷点下」を使いますが、その方針がある程度浸透しているとも言えそうです。
毎日新聞は気温には「氷点下」
毎日新聞用語集には2019年版で設けた「紛らわしい言葉」の欄に、「零下と氷点下とマイナス」という項目があります。いわく「『零下』はセ氏0度以下、『氷点下』も水の氷点以下の温度で同じ。気象関係では主に氷点下を使う。『マイナス○度』は『比較対象より○度低い』と誤解されるおそれのあるときは使わない」。用字用語の「氷点下」の項目には「主として気象関係に」とあり、気温が0度を下回るときは「氷点下」を使うのが標準的です。
回答から見られる解説で紹介した朝日新聞(「零下」を使用)を除くと、新聞・通信社は気温について「氷点下」を使用しています。新聞としては字数が少ない「零下」を使うのが効率的なはずですが、気象庁が気象用語として「氷点下」を使用しており「零下」や「マイナス」を用いないため、それに合わせたものと考えられます。また気象情報としては、水道の凍結などと直接結びつく「氷点下」は理解しやすい表現とも言えます。
「マイナス」は「氷点下」や「零下」よりも使われ方に幅があり、字数も多いため、新聞などでは選択肢としての順位が下がります。
NHKの調査結果は
NHK放送文化研究所の「放送研究と調査」2019年11月号に、気象情報で使う言葉について調査した結果が掲載されています(2019年「日本語のゆれに関する調査」から)。0度より低い気温を言う場合に、調査の対象者が自分で言うのは「氷点下」が28%、「マイナス」が70%。放送に使ってほしい言葉は「氷点下」42%、「マイナス」55%という結果でした。
NHKの用語の決まりは「『零下』は使わない。『氷点下○度○分』とする。場合によっては、『マイナス○度○分』と言ってもよい」というものでした(NHKことばのハンドブック2版)。なぜ零下を使わないかについては、上に挙げた「放送研究と調査」の記事の筆者が「『零下』には『冷夏』などの同音語が考えられ、耳で聞いたときに分かりにくいためだと聞いたことがある」と記しています。
NHK調査の結果は「マイナス」の優位を示すと同時に、自分で使う言葉とメディアの用語とは必ずしも同じでなくともよいと示しています。上記の記事も「『マイナス』を使うと、『0より下』なのか『引く』なのか、わかりにくくなる場合もある。放送で使うことばとしては、こうした『マイナス』の多義性も考慮に入れてことばを判断したい」としつつ、伝え方を検討するとしています。結果的に、NHKは原則として「マイナス」を使用する方針を決定しました。
メディア側が考えるべき言葉
今回のアンケートの結果もNHKの調査と同様、自分の使う言葉としては「マイナス」が優位であることが示されています。一方で「氷点下」も特段に避けられているわけではなく、「零下」より普段から使われていると見てよさそうです。
むろん、どれを使っても間違いにはならないので、日常的には自分の好きなものを使えばよい、ということになります。メディアの側としては、たとえば「マイナス」を使うことによって誤解を招かないかという伝え方の問題や、聞き取りやすさや字数との兼ね合いなど媒体の特性に合った選択をすることが大事でしょう。
(2020年02月14日)
選択肢に挙げた書き方はどれでも誤りではありません。「氷点下」は「水の氷点、すなわちセ氏零度以下の温度。零下」、「零下」は「温度がセ氏零度以下であること。氷点下」(大辞泉2版)で、国語辞典ではこの二つは同義とされています。新聞の天気欄、テレビの天気予報の気温の表示には「-2.5」などと「マイナス」の記号が使われています。
しかし過去の「毎日ことば」でも取り上げたように、気象庁は「マイナス」を使わず「氷点下」を使うとしています。また共同通信社の用語集では「氷点下」を気象関係に、「零下」をそれ以外の物理・化学関係などに使うとしています。対して朝日新聞の用語集は「『零下』と『氷点下』のいずれかに統一するのは論拠が薄いので併用する」として、基本的には「零下」に統一すると定めています。
毎日新聞では「氷点下」を「主として気象関係に」使う、とやや緩く定めている程度。科学に疎い出題者はこれを厳密に捉えて「零下」を「氷点下」に直した方がよいのかいつも迷ってしまうのですが、実際に使っている方が多い表現はどれなのでしょうか。
(2020年01月27日)