近ごろよく目にする「当面の間」という言い回しについて伺いました。
目次
「当面の間」許容する人が過半数
一定の期間を表す「当面の間」という言い回し。気になりますか? |
気にならない 28.7% |
違和感はあるが、許容範囲 23.5% |
「当面」だけでよい 36.7% |
「当分の間」がよい 11.1% |
「当面の間」という、ある程度の期間を表す言葉については、「当面」だけでよいとする人が最多でした。とはいえ、「気にならない」と「許容範囲」を合わせると過半数に達しており、とがめ立てする必要がないと考えている人が多数派です。新型コロナウイルスの影響でとみに目に付く表現ですが、既に社会に受け入れられていると考えてよさそうです。
紙面に街に あふれる「当面の間」
新聞の紙面はサッカー・Jリーグのチームが「当面の間、活動を休止」と伝え、街を歩けば商店が「当面の間、臨時休業とさせていただきます」と掲示。新型コロナの影響で、あちこちで「当面の間」を見かけるようになりました。いつまでかはっきりとは言えないが、一定程度の期間という意味でしょう。
この言い回しについて、新聞・通信社の用語集では1社だけ、「誤りやすい慣用語句・表現」の欄で取り上げているものがありました。「当面の間(重複)→当面、当分の間」としています。
「当面」を国語辞典で引くと「いまのところ。いましばらく」(明鏡国語辞典2版)、「現在直面していること。さしあたり」(岩波国語辞典8版)などとあります。「いましばらく」にせよ「さしあたり」にせよ、その時点からの幾ばくかの時間を表す表現です。従って「当面」だけで、ある程度の期間を表すには十分であって、「の間」を付けると重複になるという趣旨です。
書き換え例に出てくる「当分の間」。「当分」も辞書では「近い将来までの、ある程度の期間。しばらく」(岩波8版)のように説明されるのですが、用例は「―(の間)留守だ」(同)とあり、「の間」を付けることも慣用として認められていることがうかがえます。
「当面の間」は「当面」と「当分の間」の中間か
NHK放送文化研究所の「放送研究と調査」2012年9月号に、「当面(の間)」について取り上げた記事が載っています。震災復興について「当面の間」という表現がよく使われることに触れつつ、やはり「当面の間」は「『当分の間』と『当面』の混交表現で誤用だ」「いや誤用とは言えない」とする両様の意見があると述べています。
ここでは「当面の間」について、震災復興はすぐ終わるとは言えないが、長期間かかると思わせる表現も避けたいという思惑から「『当面』より長く、『当分』より短い印象を与える『当面の間』が多用されたのではないだろうか」とまとめています。
大辞泉2版は「当座」の項目の用法欄で「当座・当分・当面」の違いについて取り上げています。「しばらくの間」という意味ではいずれも使えるとしつつも、「当分」については「やや長い期間を表す」としており、「当面」については「時間の長さではなく『今・現在』を表す用法がある」と言います。どちらの言葉も同様の意味を表す一方で、ニュアンスとしては「当分」は長く、「当面」は短い、ということになるのでしょう。
国語研のツイートにも「当面の間」が
もっとも「当分の間」を使っている商店も見かけることがあり、意味としては「当面の間」と同様に使っているとみられます。
結局のところ、強調するほどの意味の違いというものはないのかもしれません。あとは「当面の間」がどれほど浸透しているか、ですが、校閲センターのツイッターに、国立国語研究所(@kokugoken)のツイートでも「当面の間」が使われているとの情報が寄せられました。見てみると、確かに。
国語研が何らかの「正解」を用意していると考えるわけではありませんが、「当面の間」の広がり具合を示す一つの証拠にはなりそうです。アンケートの結果では「当面」だけでよいとする人が最多を占めていましたが、少なくとも現時点において、「当面の間」という表現をことさらに気にする必要はなさそうです。
(2020年05月19日)
「当面の間」は「当面」と「当分の間」が混じった言い回しだという考え方があります。「当面」だけで「さしあたり」という意味があって一定の期間を指す言葉なので、「の間」は要らないとするものです。
とはいえ今までも「当面の間」はそれなりに目にする機会があり、とがめる必要があるのかどうか迷いがありました。
そこへ今般の新型コロナウイルスの流行です。ウイルスの感染拡大と社会的な行動の自粛が進むのとともに、「当面の間」という言葉も世にはびこりました。いわく「当面の間、休業いたします」「当面の間、開催を見送ります」などなど。
こうなるともう気にする必要はないのかもしれません。皆さんの感覚も「気にならない」に傾いているのかどうか、この場を借りて伺いました。
(2020年04月30日)