「立ち上げる」という言葉について伺いました。
3分の2超がパソコン関係以外にも「立ち上げる」
「立ち上げる」という言葉、日常的に使いますか? |
パソコン関係で使う 26.8% |
それ以外の場面でも使う 68.1% |
使わない 4.8% |
「立ち上がらせる」を使う 0.3% |
「立ち上げる」をパソコン関係以外でも使うという人が3分の2を超えました。「つくる」「はじめる」のような意味で使うことが当たり前になってきていると感じていましたが、その体感を裏付ける結果です。
とはいえ新しい言葉なのは間違いなさそうです。毎日新聞で確認できる初出(活用形を考慮して「立ち上げ」で検索)は1990年。「どのアプリケーションを立ち上げようと……」というくだりで、やはりパソコン絡みの話題でした。毎日新聞の記事データベースでの使用例(東京本紙)は90~94年の5年間に28件、95~99年は354件。この時期に件数が急激に増えたのはWindows95の発売(95年11月)と無関係ではないでしょう。
辞書を見ると、広辞苑は第4版(91年)まで記載なし。98年の第5版で「コンピューターのシステムを稼働できるようにする」という意味で載りました。第6版(2008年)では「組織・企業などを新しく始める」という意味が付け加えられており、用法の広がりをうかがわせます。
広辞苑と版元を同じくする岩波国語辞典は第7版の序文(「第七版刊行に際して」)で、自らを「最近の新語・俗用にはかなり保守的」としながらも「機械システムを『立ち上げる』など他辞書に先んじて第五版〔1994年〕に取り上げ、更に広がった使い方も第六版〔2000年〕に加えた」と、やや得意げに述べています。
今回のアンケートの結果を見ても、一過性の俗用でないことは確実でしょうから、辞書の編者に先見の明があったと言うべきかもしれません。
しかし「立ち上がる」から目的語を取る形を作るなら「立ち上がらせる」ではなかろうか、言い回しとしては妙なところがあると思っていましたが、明鏡国語辞典(第2版)では「立ち上がる」の項目で説明を加えています。いわく、「意志的な動作を表す」場合の他動詞形は「立ち上がらせる」だが、「無意志的な作用を表す」場合の他動詞形は「立ち上げる」になる――とのこと。
「倒れた人を~」などという場合は主体や意志がはっきりしているから「立ち上がらせる」になり、同辞典に例示されていた「国家戦略室が立ち上がる」「新企画が立ち上がる」という文から他動詞形にすると「~を立ち上げる」になるということです。
毎日新聞用語集では「立ち上げる」について、「意味の曖昧な語なので、コンピューターのソフトを起動させるなどの場合以外には使わない方がよい」としています。ただ、パソコン以外でも使う人が大多数を占めた今回の結果から見ても、用法の広がりは相当に進んでいるようです。今後の扱いについては検討が必要と思われます。
(2018年04月06日)
「立ち上げる」という言葉がよく使われるようになったのはパソコンが普及した1990年代ではないでしょうか。
現在は一般的に、パソコンなどの機械以外についても「スタートアップ」の意味で使われているはずです。ただし、語形としては「立ち上がらせる」の方が旧来の語用に沿っているだろうとは思います。
毎日新聞用語集では「立ち上げる」について「意味の曖昧な語なので、コンピューターのソフトを起動させるなどの場合以外には使わない方がよい」として、抑制的な使用を呼びかけています。「新しい組織を立ち上げる」といった場合、組織を設立したのか、それとも設立を企画したのか、実情がはっきりしないためです。
一方で「共同体を立ち上げる」のように起点も実態も明確でない場合には使いやすい語かもしれません。
(2018年03月19日)