仕事中にしばしば出合う、本来とは違う意味合いや、辞書ではあまり見つからない言葉遣い。そんな“気になる表現”にどう対応するか、マスコミ各社の用語担当者が参加する日本新聞協会用語懇談会に報告された2019年秋のアンケート(関西地区新聞用語懇談会で毎日新聞大阪本社が幹事社として主導)からまとめた2回目です。
これらの扱いは用語基準としては決められていないものも多く、回答は各社の公式見解というわけではありませんが、校閲記者ら各社の用語担当がどのように考えるか、その傾向はうかがえます。
ぜひ、一緒に考えてみてください。
回答したのは17社(全国紙・通信社6、スポーツ紙1、テレビ局5、地方紙5)の用語担当者。原則として話し言葉や寄稿文、引用などの場合は除く。
目次
「ハードディスク(HD)」
ハードディスクドライブ=HDDを「ハードディスク」「HD」と略してよいか
直す 1社 |
場合による 4社 |
直さない 12社 |
「直さない」が大半を占めた。「厳密には別ものだが、実態として同じものとして扱われている」という回答の通りだが、「この例文はドライブではなくディスクを指しているので問題ない」という指摘もあった。社会面なら許容するなど、ニュースの性質によって判断するという意見も出た。
毎日新聞の意見として「ハードディスク(HDD)はアルファベットの対応としておかしいのではないか」と提起したが、「ハードディスクドライブ」の口語的名称の「ハードディスク」、表記の略称である「HDD」を組み合わせるのは許容できるとの声もあり、実際その後発生した神奈川県の個人情報流出問題では、毎日新聞をはじめ多くの社が「ハードディスク(HDD)」とした。
振り替え休日も「祝日」?
会期中の月曜に振り替え休日が含まれるが、振り替え休日は祝日ではない
直す 9社 |
場合による 6社 |
直さない 2社 |
「○日は開館と具体的に書く」「会期に限定しない美術館の開館日を書きたいのであれば祝休日」などの意見が挙がった。振り替え休日も開館するが、振り替え休日が祝日に準じるとみなせるか個人の意識に差があるため、開館日を具体的に書くのが読者にとって親切であるといった回答も複数あった。
設問では会期のある美術展という設定にしたが、アンケートを作成する際に毎日の校閲部員から「特定期間に限らない美術館の開館日を紹介する場合、『祝日開館』を『祝休日』としたほうがよいとは指摘しづらい」という声も聞かれた。
記された「肉声」
「肉声」は本来人の口から出る生の声。機械を通した声については許容されつつあるが、音としての声ではない、話した言葉を文章に記録する際に使えるか(※「拝謁記」報道の際も「昭和天皇の『肉声』」として散見した)
直す 1社 |
場合による 5社 |
直さない 11社 |
「肉声」についてはこのサイトでも何度か取り上げており、その趣旨は「テープなど録音したものにも使ってよいか」だった。それに対し、最近文章というもはや音ですらない「声」を「肉声」とするケースが出てきたため、この表現についてはどう考えるかを尋ねた。
各社許容する傾向にあることが判明したが、文章であっても「実際に話したとおりに記録されたもの」であるならば肉声に含めるというのは、録音を肉声とすることの延長線上にあると言えなくもない。