「野菜の水分を生かしたもと朴な蒸し煮です」? まとめて届いた料理のレシピをチェックしていて面食らいました。
「もと朴」って、なんじゃこれは……。しばらく考えをめぐらせて、どういうことなのか思い当たりました。
レシピではしばしば「スープの素」などが出てくるのですが、常用漢字表では「素」に「もと」の読み方はないので、新聞では「スープのもと」とひらがなにするのが基本です。
毎日新聞用語集より
おそらく、その修正が多数あるため、「素」→「もと」という一括置換を機械的にかけてしまっていたのでしょう。その結果「素朴」まで「もと朴」になってしまったというわけです。
同じような表記の多数の修正に一括置換機能を使いたくなる気持ちは分かるのですが、想定外のところが条件にあてはまって書き換えられてしまい「どうしてこんなことが?」という意味不明な誤りをつくりだしてしまうケースは、この例にかぎらず実は少なくありません。面倒でも確認しながら作業しないと事故のもとになります。
「羽目」が「習」に
直筆の縦書き原稿から入力するときに「羽目」の2文字を「習」の1文字と見間違えたのでしょう。手元にきていた原稿のコピーでチェックして見つけられました。
同様の入力ミスで、最近もある地域面の文芸欄で「歪(いびつ)な眼鏡」が「不正な眼鏡」になっていて訂正が出た例があります。
表現の自由度が高い文芸作品の手書き原稿では、よほど慎重に照合しないと発見が困難な場合も少なくなさそうです。
「挙げる」が「拳げる」に
何をどうしたらこのような変換ミスが起きるのか、まったくもって謎です。そんな理由の分かりにくい間違いもやはりあります。
しかしこれは、他にも遭遇した経験があるので、たまに起こる間違いのようです。そのことを頭の片隅においておくと、理由が分からなくても、見逃さない可能性が高まります。
「間違えるパターン」を知っておくことは、校閲作業のコツの一つです。
ミスが見つかったら、なぜこうなったのか?を推理し、「こういうこともありうる」と意識しておくよう努めることが、同じような間違いを繰り返すことを防ぐのに役に立つでしょう。