読めますか? テーマは〈虫〉です。
目次
精霊蜻蛉
しょうりょうとんぼ
(正解率 56%)精霊祭り、つまりお盆の頃に現れるウスバキトンボ、キトンボなどを指す俗称。土地によっては赤トンボをいうこともある。
(2017年08月14日)
選択肢と回答割合
しょうりょうとんぼ | 56% |
せいれいかげろう | 17% |
しょうりょうばった | 27% |
蟻の一穴
ありのいっけつ
(正解率 80%)ささいなことが思いがけない被害をもたらすということ。「蟻の一穴、天下の破れ」「蟻の穴から堤も崩れる」ともいう。
(2017年08月16日)
選択肢と回答割合
ありのいっけつ | 80% |
ありのひとあな | 17% |
ありのいちけつ | 3% |
空蟬
うつせみ
(正解率 88%)セミの抜け殻。セミそのものを指すこともある。「この世」という意味もある。源氏物語の巻名や登場人物の通称にもなった。
(2017年08月18日)
選択肢と回答割合
うつせみ | 88% |
そらぜみ | 2% |
からぜみ | 10% |
◇結果とテーマの解説
(2017年08月27日)
この週は「虫」。8月14日に毎日新聞紙面(大阪本社管内以外)の特集「校閲発 春夏秋冬」で虫に関する記事を出したのに合わせました。
この夏、最大の虫の話題はヒアリにとどめを刺すでしょう。漢字は「飛蟻」かな?と思っていた方はいらっしゃいませんか。正しくは「火蟻」です。
アリは最も身近な虫のせいか、ことわざも多いですね。「故事・俗信ことわざ大辞典」(小学館、初版)で「蟻」で始まる言葉を数えると何と42もありました。
その一つに「蟻の這(は)い出る所もない」というのがあり、思わぬ表記に思わず「あり?」。普通「這い出る隙もない」ですよね。しかしこの辞典は「隙」を異表現としても挙げず「所」のみ掲げています(第2版で入れています)。用例は浄瑠璃の「菅原伝授手習鑑」から
逃げ支度しても、裏道へは数百人を附け置き、蟻の這ひ出る所もない
が引かれています。多分、もともと比喩ですし「所」でも「隙」でも用いられていたのでしょう。
このことから思ったのは、今自分が覚えている慣用句はたくさんあるバリエーションの一つにすぎないのかもしれないということです。だとしたら、慣用句の誤用とされる語も必ずしも誤用とは限らないかもしれません。
「毎日新聞用語集」では「アリの入り込む隙(すき)もない→アリのはい出る隙(すき)もない」という項目があります。しかし今たとえば「ヒアリには水際対策が重要で、それこそアリの入り込む隙もないくらいの厳重さが求められる」という文章があるとします。これを「アリのはい出る」に直すのはためらわれます。入るのを阻止するという趣旨にそぐわなくなってしまいます。
もちろんそれを承知の上で、単に言葉のあやだから「はい出る」という慣用句の方がいいという意見もあるでしょう。ただ、昔から異表現がある慣用句なので、「はい出る」にこだわることはないという気もするのです。先の文例は例えば「アリの一穴、天下の破れ」という言葉を持ち出すとかして、全く別の表現に変えた方がいいと思います。
「蟻の一穴」というのも出典の「韓非子」では「千丈之堤、以螻蟻之穴潰」ですから「一」というのは初めはなかったようです。徳川吉宗の「紀州政事草」に「千丈の堤も蟻の一穴より」というのが「岩波ことわざ辞典」に古い例として挙げられています。「いろいろな形で多用され、定まった形はなかった」と同辞典で時田昌瑞さんは書いています。
「空蟬」については中村幸弘著「読みもの日本語辞典」(角川ソフィア文庫)から引用しましょう。
夏の日の夕暮れどきなど、庭の隅の木陰に落ちている「蟬の抜け殻」を見ることがあります。それを、ちょっと格好よく、「空蟬」といったりすることがあります。(中略)実は、「うつせみ」の本来の意味ではなかったのです。もとは、「現身」とでも書いたらよい、〈この世に生きている人〉を意味することばなのです。ところが、『万葉集』では、「空蟬」「虚蟬」などと表記されることが多く、これが、中古以降その文字どおりの意味を生んでしまったのです。
セミが成虫になったらすぐに死んでしまうことに、人の世のはかなさと通じるものがある、と昔の人は考えたのかもしれません。
なお「もぬけのから」という言葉の「もぬけ」は「蛻」と書き、セミやヘビなどの脱皮のこと。「もぬけの空」と書くのはいけません。「もぬけの殻」です。
「精霊蜻蛉」は今回最も正解率が低くなりました。これは正式名ではなく、「その種類を正確に指示することは困難」(日本大百科全書)だそうです。これとは別の「精霊飛蝗」は出題済みですが、実はその時「チキチキバッタともいう」と書いてしまいました。「キチキチバッタ」の間違いです。この場を借りておわびして訂正いたします。