(写真はユーチューブ「首相官邸チャンネル」の動画から)
目次
YouTubeの「自動生成」字幕
今回の内閣はまさに 安定と 朝鮮の内閣であります ほぼ皆さんと共に 0ような時代の 希望にあふれ これは日本を q廃れていく 新しい 危ないからのチャレンジに 角瓶の ご理解とご支援を賜ります様に……
これ、何だと思いますか? YouTube(ユーチューブ)「首相官邸チャンネル」で、9月11日に配信された「第4次安倍第2次改造内閣 総理記者会見」の日本語字幕です。ユーチューブには、しゃべった言葉を機械が自動的に字幕にする「自動生成」機能があります。画面右下の「設定」(歯車マーク)を押し、「日本語(自動生成)」を選択するだけで、誰でも字幕を出すことができます。
ということは、例えば首相の言葉が引用された記事の確認で使えないだろうか。音声を出すことがはばかられる職場で、しかもイヤホンを持っていないとき役立ちそうだ――そう思ったら大間違いでした。
「挑戦の内閣」が「朝鮮の内閣」に
機械の聞き取り能力は最近進歩しているという話も聞いていたのですが、まだまだこの程度なのですね。一つ一つ間違いを正すと、こうなります。
ほぼ皆さんと → 国民の皆さんと
0ようの → 令和の
これは日本をq廃れていく → 誇れる日本を築き上げていく
危ないからの → 安倍内閣の
角瓶の → 国民の
「安定と挑戦」は今回の内閣のキャッチフレーズのようですが、あの字幕の部分だけ見ると朝鮮半島政策を中心に据えることか?と首をひねることになります。
ユーチューブ動画には日本語字幕だけではなく、翻訳機能もついています。
試みに英語を選択して「朝鮮」部分の字幕を見ると、紛れもなく
It is the Korean cabinet
と訳されています。
改めて、正しい日本語を首相官邸ホームページの文書から引用しますと
今回の内閣は正に、安定と挑戦の内閣であります。国民の皆さんとともに、令和の時代の希望にあふれ、誇れる日本を築き上げていく。新しい安倍内閣のチャレンジに国民の御理解と御支援を賜りますように……
人知を超えた「神乳」
安倍首相の滑舌のせいでこんなひどい字幕になっているわけではありません。公平を期して記すと、動画の記者会見の質問中、毎日新聞記者が2度使った「人事」という言葉が、字幕では「陣地」「神乳」となっていました。「陣地」というのはいかにもありそうですが、「神乳」はまさに人知を超えた間違いといえましょう。
ちなみに、厚生労働省が発信するセクハラ対策のための動画「職場におけるセクシュアルハラスメント防止に向けて」も、日本語字幕で見ると誤字のオンパレードなのですが、その中で出てくる「人事」も「神乳」になっていました。よりによってセクハラ対策で……。ほかにも同省の動画「妊娠・出産に関するハラスメントの防止に向けて」で「善治郎6」と出てきて、誰かと思えば「人事労務」でした。どうもユーチューブの自動生成機能は「人事」が苦手のようです。
褒めたはずがセクハラに?
セクハラといえば、内閣改造人事の記者会見で小泉進次郎氏の環境相登用について聞かれた安倍首相の答弁中、動画字幕ではこんなことになっていました。
当時の10年前の私よりも年季が入っているなぁと性的な技術によってですねそう思います
首相官邸ホームページの文章では
当時の、10年前の私よりも年季が入っているなと。政治的な技術において、そう思います。
もちろん安倍首相は「政治的」と言っているのですが、字幕だけ見るとあらぬ誤解を受けかねない文言にされているわけです。英語を選択して該当部分の字幕を見ると、やはり
sexual technology
と翻訳されていました。
これを英語で見ている人が世界にどれだけいるかわかりませんが、一国の首相が自ら起用した閣僚にセクハラ発言したと受け止められないのでしょうか。
「元号は令和」が「剣豪はレイバー」
ほかの動画も見てみましょう。
「新元号公表―平成31年4月1日」で、菅義偉官房長官がおもむろに「令和」の書を掲げる直前、「新しい元号は令和であります」と述べました。これが自動生成字幕では「新しい剣豪はレイバーであります」となっています。
英語翻訳では“new Swordsman Be a raver”。
元号の発表時、手話通訳者が「めいわ」と誤って伝えたことが話題になりましたが、すぐ訂正されたとのこと。しかしこちらは5カ月以上たっても修正されていません。
このユーチューブ画像は9月20日現在、117万回以上視聴されています。その中には日本の実情を知らないまま生きた日本語のテキストとしてこの動画を見た外国人もいたかもしれません。新しい剣士の紹介と思った外国人がいたかどうかわかりませんが、「レイバー」という単語はミステリアスだったのではないでしょうか。raverは「(社会的にも性的にも)自由奔放に生活する人」のことだそうです。
また、この画像を見る人の中には聴覚障害者や難聴者もいて、この日本語字幕機能を使った人もいたのではないでしょうか。その方々の戸惑いは推して知るべしです。
「日本国民の精神的な5歳感」とは
官房長官の新元号発表の後に行われた安倍首相の記者会見も変な字幕だらけなのですが、一部挙げると、
「我が国の歴史」が「ダークいいの歴史」(dark good history)
「日本国民の精神的な一体感」が「日本国民の精神的な5歳感」(Japanese people A spiritual 5-year-old feeling)
となっています。
余談ですが、三省堂から出たばかりの「大辞林」第4版では「黒歴史」という言葉が入りました。「自分の中で隠しておきたい過去の物事」という意味だそうです。
「日本国民の精神的な5歳感」といえば、戦後マッカーサー元帥は「日本人は12歳の少年のよう」と述べたことが思い起こされます。12歳から5歳に退行……まあチコちゃんは5歳なのに大人顔負けですけれど。
機械が勝手に作った文章が知らぬ間に
閑話休題。
首相官邸のホームページでは、ユーチューブではなく「政府インターネットテレビ」としても動画の配信をしています。その一つである9月11日の記者会見の動画は、ちゃんとした日本語字幕がついています。これは自動生成ではなく自前で作ったものと思われます。
しかしあえて、屋上屋を架すような形で内閣広報室はユーチューブでも発信しているのです。広報に熱心なのはいいのですが、自動生成字幕のお粗末さについては認識がなかったのでしょう。
怖いのは、機械が勝手に作った文章が、政府の名の下におそらく誰もチェックしないまま流され続けていることです。いや、本当は政府だけではなく、すべてのユーチューブ関係者の問題で、人間の知らないうちに人間をおとしめるような文章が機械によって日々生成されているということに、もっと私たちは気付かなければならないのではないでしょうか。その象徴として官庁の動画について取り上げました。
【岩佐義樹】