「○日以来△回目」といった場合、「○日」を何回目と捉えるか伺いました。
目次
「4回目」が過半数も解釈割れる
「7月15日以来、今年5回目の猛暑日」とあったら、7月15日は何回目の猛暑日? |
1回目 36.6% |
4回目 54.3% |
わからない 9.1% |
「4回目」と捉えた方が過半数を占めましたが「1回目」も4割近く、解釈は割れました。
「以来」の前の日付を起点に考える
改めて「以来」を辞書で引くと、「過去のある時点、また、ある年齢を起点にしていう。…よりこのかた。…からずっと引き続いていること」(日本国語大辞典2版)。シンプルに考えれば、起点の7月15日から現在までの時間において5回という計算で、7月15日は1回目ということになります。
日国のいうように「以来」は「引き続いている」ことを表すというのがポイント。辞書をいろいろ見ても、「前回起こった日時を指す」といった説明はありません。では今回のアンケートで多数派だった「4回目」との捉え方はおかしいのでしょうか。
明鏡国語辞典2版には「卒業以来二十年ぶりの再会」という用例がありました。「二十年ぶり」から分かるように、前回会ったのは20年前。卒業してから会わない状態が続いていたことを示すのに「以来」が使われているのです。同様に考えれば「7月15日以来5回目の猛暑日」は、7月15日を最後に猛暑日ではない状態が続いていたということ。これなら「4回目」と読めることになります。
「以来」は「継続」「空白期間」の両方を示す
次のような例はどうでしょう。
(1)先週末以来の雨で土砂崩れの危険がある。
(2)先月末以来の雨で農家はほっとしている。
(1)は雨が降り続いていることを意味し、(2)はしばらく雨が降っていなかったことを表しています。「以来」は「ある時点から今まで続いている」「ある時点で起こって以降ずっとなかった」の両様の意味で使われ、我々は普段、文脈から判断しているわけです。
さらに意地悪な読み方をすれば、「7月15日は猛暑日ではなかった」と解釈できなくもありません。例えば「最終赤字は1990年の創業以来3回目」ならどうでしょう。90年の最終赤字が2回目、と読めないのはもちろんですが、90年が最終赤字の1回目かというとそうとは限りません。今回以外の2回の赤字は創業以降のどこだったかは分からないのです。例えば7月15日が梅雨明けの日か何かで、そこを起点としただけだとしたら、最初の猛暑日でない可能性すらあるわけです。
分かりづらい場合は情報の補足を
以上からやはりアンケートの例文は情報不足で、「わからない」を選ぶ方が多いだろう--と思っていたのですが予想は外れました。多くの方が疑問を抱くことさえなく誤解してしまう危険があることがはっきりしたわけです。さすがにこれは捨て置けません。
前回起きた日時を示すのであれば、明鏡の例のように「○○ぶり」というフレーズを挟むのが確実です。「7月15日以来1週間ぶりで今年5回目の猛暑日」なら誤解の余地はありません。もしくは「猛暑日は今年5回目で、7月15日以来」のような語順にするのもよいでしょう。
最初に起きた日時を示すのであれば「今年最初の猛暑日だった7月15日以来5回目」などでしょうか。正確に伝えるためには字数が増えることをいとわず書くしかないのかもしれません。
(2019年09月24日)
8月に、北朝鮮の飛翔(ひしょう)体発射について「7月25日以来6回目」とする記事がありました。7月25日の発射を1回目として、その後5回の発射があったという意味です。この書き方にあてはめれば、質問の場合は7月15日が1回目の猛暑日ということになります。
「以来」は「ある一定の時から今日に至るまでずっと」(大辞林3版)の意味ですから、初めて猛暑日を記録した7月15日を起点として現在までで5回、という具合に読むこともできるのかもしれません。北朝鮮の記事では、(一連の飛翔体発射が始まった)7月25日を起点として現在までで6回、という意識で書いていたものと思われます。
しかし出題者の感覚では、7月15日は4回目の猛暑日と読みたくなります。「A高校の甲子園出場は2005年以来5回目」とあったら、前回出場(4回目)は05年だと捉える人がほとんどではないでしょうか。
今回のアンケートで「4回目」と回答する方が多ければ、北朝鮮の記事のような場合には誤解を招かないよう修正が必要ということでしょう。回答が割れるか、「わからない」という方が多いようであれば、そもそも「××以来○回目」が出てきたら両様に読めてしまわないか注意が必要ということ。結果を参考にしたいと思います。
(2019年09月05日)