「笑ってる」などの「い抜き」表記をどう感じるか伺いました。
目次
会話文では9割以上が許容
「笑っている」を「笑ってる」、「やっていない」を「やってない」などと表記するのは…… |
地の文でも会話文でも避けたい 5.6% |
会話文なら許容できる 80% |
地の文でも会話文でも問題ない 14.5% |
地の文で使うのも問題ないという方を合わせ、実に9割以上の方が会話文での「い抜き」表記を許容しました。逆に会話文以外では避けたほうがよいと考える方も8割以上。地の文なら「い抜き」は直すけれども話し言葉なら直していない出題者の感覚と一致する傾向で一安心です。
「い抜き」はあくまで「くだけた言い方」
辞書でも「てる」という見出し語で「『ている』の転。話し言葉でのくだけた言い方」(大辞林3版)などと説明され、「い抜き」の存在は認められています。そしてまたこの「話し言葉でのくだけた」という説明が、会話文では認めるけれども地の文では避けたい、という多数派のスタンスの根拠となるでしょう。
加藤重広氏は「日本人も悩む日本語」(朝日新書)で「ら抜き」言葉について、合理的な言葉の変化ではあるとしながらも「一定の品位や格式が要求される文書で許容されるほどの段階ではない」と述べています。言語学では格式高い言い方を「文体レベルが高い」というのですが、その「文体レベルが高い言い方に、文体レベルの低いら抜き言葉はそぐわない」(同書)というわけです。
「い抜き」も同様でしょう。NHKの高校講座「ベーシック国語」の2学期第20回「適切な表現」では、「避けたい語句・表現」の中に「い抜き言葉」が挙げられていました(2学期の第20回学習メモ)。文章の書き方を学ぶ人に勧められるような規範的な表記ではないということです。まず基本的には、「い抜き」を避けて文章を書けるようになる必要があると言えます。
新聞も記事によっては使うことも
新聞は文体レベルが高い(はずであり、そうなるように努力しています)のが普通で、「い抜き」とは相性がよくありません。ただし、気楽に読めるようにあえてくだけた表現で書くこともあり、「い抜き」の方がしっくりくる場面もあります。
歌手・森昌子さんの引退表明についての萩本欽一さんのインタビューでは「ちっともびっくりしてない。おもしろいなって思った」というコメントが載りましたが、これをわざわざ「びっくりしていない」にすると、欽ちゃんらしさを消してしまいそうです。この記事は芸能界がテーマの特集だったこともあり、全体を通して軟らかい文章で通していました。
逆に毎日新聞の社説を「い抜き」にしてみると、「経営者の自主性に任せてたのでは賃上げはできないとして、政府主導で最低賃金を大幅に引き上げる潮流が各国で起きてる」。硬い内容なのに幼い印象を受ける、アンバランスな文章になるのが分かると思います。
「い」の有無で変わる印象の使い分けを
こう考えてくると、「地の文」「会話文」と単純に分けるのではなく、文章の内容や書き手の意図する文体レベルによって、個々の場面で「い抜き」の是非を考えるべきかもしれません。会話体であろうと、政治家の国会での演説に「い抜き」表記はそぐわないでしょう。また新聞を離れて、友達の読むゆるいブログなどでは、地の文であっても語りかけるような「い抜き」のほうが安心して読めそうです。
この出題のきっかけになった投書をくださった20代の教員は「い抜き」表記に違和感があるとして、「言葉に品格を求めてはいけないのだろうか」と問うておられました。このアンケート結果を受けての校閲からの回答としては、「品格のある文章を書かねばならない場面は必ず訪れます。規範的な書き方に慣れておくのを優先し、『い抜き』とは使い分けるのがよいでしょう」です。品格のある文章を求める方々の存在は我々としても大変心強いものです。
(2019年08月16日)
毎日新聞の投書欄に、20代の教員から投稿がありました。「もう始まってる」などと表記する「『い』抜き言葉」に違和感を覚えるとのことです。
新聞は規範的な表記を原則とするメディアですから、校閲は「『い』抜き」で書かれた原稿は基本的に直します。ただしスポーツ選手や街の人々へのインタビュー記事などでは、話し言葉だから直さなくてもいいだろうと判断することもあります。「○○選手はよくやってると思うよ」「寝てる場合じゃないと思って早朝から並びました」--。こんな例では、発言の通りに「『い』抜き」で書く方が語り手の雰囲気をよりよく伝えるのではとも思います。
大辞林3版で「『ている』の転。話し言葉でのくだけた言い方」と説明されるなど、「てる」を見出し語にしている辞書は意外にも多数。投書の筆者も、話す際には「『い』抜き」にほぼ違和感はないと述べています。しかし文字にするなら会話文でも「『い』抜き」が気になる、という方は一定数いらっしゃるでしょうか。
(2019年07月29日)