「すすめる」という言葉の使い分けについて伺いました。
運動を「すすめる」は「勧める」が7割
健康のためには運動が大事だよ、と人に伝える――どう書きますか? |
運動を薦める 16.2% |
運動を勧める 69.1% |
運動をすすめる 14.7% |
「勧める」を選んだ人が7割。回答から見られる解説では、当方が「正解」と考えるのも「勧める」だと書きましたが、考え方にずれがなかったことに安心しました。基本的には、行為を表す名詞については「勧める」を、物品や人物などには「薦める」を使うのがよいと考えられます。
文化庁の「言葉に関する問答集6」(1980年)や白川静氏の字書「字統」によると、常用漢字の「勧」の正字である「勸」の元の意味は「口々にやかましく言って力づけること」ないし「農事をすすめること」などとされます。そこから「はげます」「よいことをするようにしむける」といった勧誘・勧奨の意味で使われるようになったとのこと。
「薦」は「廌(チ、タイ)」という一本角の神獣が食べるきちんとそろった草のこと、あるいは草を敷いた上に供物の獣をのせて神にすすめること、といいます。
文字としての成り立ちは全く別ものですが、どちらも日本語では「すすめる」と訓読みするにふさわしい意味を含んでいます。文化庁の「『同訓異字』の漢字の使い分け例」では、「そうするように働きかける」という意味では「勧める」、「推薦する」という意味では「薦める」だとしています。
「問答集」で挙げている用例には「食事(たばこ・座ぶとん)を勧める」というものがありました。「食事をすすめる」は大体において「食事すること」をすすめるという意味ですから、動作を含むケースであって「勧める」になるのは分かりやすいと思います。しかし、「座ぶとんする」とは言わないですが……この場合も「座ぶとんに座ること」をすすめている、というのは明らかだということでしょう。
by 鯨六寸
これが例えば、「床に置くべきものはクッションか、座ぶとんか、座椅子か」が問題になっている場合に「座ぶとんを推す」ということであれば、「座ぶとんを薦める」になろうかと思いますが、まあレアケースですね。
使い分けで困るのは、一つの記事の中でも「薦める」「勧める」が入り交じる場合です。「読書を勧める」記事の中で、書名を挙げて「『○○』を薦める」とあると、表記が揺れているように見えてしまいます。そうしたケースでも使い分け自体には根拠があるわけですが、「すすめる」と仮名書きにして統一感の無さを解消する、という方法はあり得ると考えます。
(2018年06月19日)
「勧める」と「薦める」の使い分けはしばしば問題になります。勧奨ないし推薦の意味で「○○をすすめる」という場合、「○○」の部分に入るのは通常は名詞です。なかでも行為を表す名詞については「勧める」を、物品などには「薦める」を使う、というのが一般的な使い分け方とされます。
「運動」は「運動する」と動詞化することができる、行為性のある名詞です。よって今回の設問の場合は「運動を勧める」がよいでしょう。
先月、校閲グループのツイッターで「肥満予防に薦めるもう一つの運動がバランスボール」というくだりに「勧める」とする直しを入れた画像を紹介したところ、バランスボールは「物」だから「薦める」でよいのではないか、という意見をいただきました。確かにバランスボールは物品なのですが、当該の記事では「運動」としてバランスボールを挙げているため「バランスボール(運動)」と理解して「勧める」の方がよい、ということになりました。
(2018年05月31日)