生きているコンブはだしを海に出しますか? この質問にグーグルのAIと毎日小学生新聞は全く違う答えを出しました。あなたならどちらを信じますか? そして後日、AIの回答は変わることがあるでしょうか。

いつの頃からか、グーグルで検索や質問をすると、「AIによる概要」という答えが一番上に出ることが多くなりました。急いでいるときのちょっとした確認には便利かもしれませんが、AI(人工知能)の限界を感じることもよくあります。
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AI「だしを出しません」
きょう(2025年12月8日)の「毎日小学生新聞」に、小学生からの質問に答えるページがあります。ほぼ毎週載る「疑問氷解」というコーナーで、きょうの質問は
コンブは海の中で「おだし」が出ないのでしょうか
という、小学5年生からの素朴な疑問でした。
毎日小学生新聞としての答えはあとで紹介します。試みに、その掲載前にチェックする際、グーグルで「生きている昆布は海にだしを出しますか」と聞いてみると、「AIによる概要」としてこういう文章が一番上に出てきました。
いいえ、生きている昆布は海にだしを出しません。昆布は生きた状態では、うま味成分であるグルタミン酸などを細胞膜の中に閉じ込めているため、海中でだしが溶け出すことはありません。昆布を乾燥させたり、水に浸けたり、お湯で煮たりすることで細胞膜が壊れ、うま味成分が溶け出してだしが出るようになります。
• 昆布が生きている間: 昆布は、生きていくために必要なうま味成分を細胞内に大切に保持しています。
o 細胞膜には「選択透過性」という性質があり、必要なものを外から取り込み、不要なものを外に出す働きをしますが、うま味成分は昆布にとって必要なものなので、細胞の外には出ません。
o 昆布が海中でだしを出しては、脱水症状を起こしてしまいます。
• 昆布が死んだ(加工された)状態: 海から引き上げられて死んだり、乾燥させられたりすることで、細胞膜が壊れます。
o 細胞膜が壊れると、細胞内に閉じ込められていたうま味成分が水に溶け出し、だしになります。
o 昆布を水につけたり、お湯で煮たりすると、水や熱によって細胞膜が壊れることが、だしが出る理由です。
理路整然とした解説のように読めます。検索結果として画面の下には似たような内容のサイトがいくつか出てきます。どうやら同じ疑問を持つ人は多いようで、テレビでも取り上げられ同様の答えだったそうです。
グーグルとは別の検索で、マイクロソフトのAIアシスタント、Copilot(コパイロット)にも聞いてみると――
いい質問ですね!結論から言うと、生きている昆布は海の中で「だし」成分をほとんど出しません。
理由はこうです:
• 昆布のうま味成分であるグルタミン酸やその他のアミノ酸は、昆布が乾燥・熟成される過程で細胞壁が壊れ、可溶化することで抽出されやすくなります。
• 海中では昆布は生きていて細胞がしっかりしているため、成分は外にほとんど漏れません。
• さらに、海水は塩分濃度が高く、浸透圧の関係で成分が外に出にくい環境です。
つまり、海の中で昆布が「だし」を出して海水がうま味たっぷりになる、ということはありません。だしが取れるのは、収穫後に乾燥させてから水に浸けることで細胞が壊れ、成分が溶け出すからです。
ちなみに、昆布のだし成分は乾燥・熟成で増えるので、採れたての生昆布よりも干した昆布の方が圧倒的にうま味が強いんですよ。
「ほとんど出しません」とやや慎重ですが、内容はグーグルと大体一致しています。
毎日小学生新聞「実際は出ている」
では、毎日小学生新聞の答えを紹介しましょう。

2025年12月8日(一部地域9日)毎日小学生新聞
東北大大学院農学研究科の青木優和教授は「海の中でコンブは生きているのだから、だしは出ていないかというと、実際は出ているといえます」と述べているのです。
要約すると、コンブは下から伸びていき、上の方はどんどん古くなって海に溶けていくそうです。その時、細胞膜の内部にあった栄養分が海に出て行くということです。見出しにも「壊れた細胞から出る 海の中で溶け出す」とあります。
なるほど、コンブも生物なので、新陳代謝(その言葉は紙面では使われていませんが)もあるはず。そして、死んで乾燥させたコンブからうまみ成分が出るのだったら、古くなっても生きた細胞ならグルタミン酸があると思われます。
もっとも、同教授によると、グルタミン酸だけではなく苦み成分も出しているので「おいしくはないと思います」。人間が思うおいしいだしではなく、海の微生物にとっての栄養になっているようです。まあそれが回り回って海産物の恵みにもなるわけですが。
今後AIはどういう答えを出してくるか
しかしなぜ、AIは自信たっぷりに「いいえ、生きている昆布は海にだしを出しません」と答えたのでしょう。AIはよく誤る、と言われることがあります。実際私も最近、現実に存在する小学校の名を検索すると「AIによる概要」に「その名の小学校は存在しません」と答えられて驚いたことがあります。
だから特に、一番上に表示されるAIの概要にはすぐ飛びつかないようにして、下の信頼できるサイトで確認するのが鉄則です。
でも、このコンブの場合はおそらく現状のネット情報が「海にだしは出ない」という趣旨に満ちているので、その反映に過ぎないのでしょう。

ということは、今回のこのコラムの情報を、AIがどう取り込み、判断して、今後同じ質問を出すと、どういう答えを出してくれるか楽しみです。
最後に少しだけ宣伝。毎日小学生新聞にはこのように、ネットでもAIでも得られない情報があります。近日中には「機動戦士ガンダム」で有名なアニメーター兼漫画家の安彦良和さんがインタビューで秘話を語ってくれますよ。
【岩佐義樹】
