「ひとごと」に対する「自分ごと」という表現について伺いました。
目次
「おかしい」が7割で圧倒的
「ひとごと」に対して「自分ごと」という言葉を使いますか? |
使う 14.2% |
使わないが、おかしくはない 15.6% |
使わない。おかしな言い方だと思う 70.2% |
「おかしい」と考える方が7割と圧倒的で、使うという方は2割に満たず。ツイッターのコメントも「使わない」派ばかりでした。
ビジネス書では肯定的な扱い
正直なところ、ここまで否定的な傾向が出るとは思っていませんでした。というのは、ビジネス書や企業の管理職向けのウェブコラムなどで、キーワードとしてよく見かけるから。従業員が仕事を「自分ごと」と捉えることで意欲も能力も上がり、企業としてプラスになるといった文脈で使われます。
「自分ゴト化」(電通インナーブランディングチーム・桑畑英紀著、2011年)には「社員の一人ひとりが、会社のブランドを実現する主体であることを自覚し、当事者意識を持って行動できる状態になることを『自分ゴト化』と定義した」とあります。それができていない状態が「社員が、ビジョンや企業目標、ブランドの実現を『他人ゴト』として捉え、当事者としての関心を示さなかったり、受け身の行動しか取らないという状態」。このように「自分ごと」と「ひとごと」が対比されている――と思ったのですが、同書の図解の「他人ゴト」には「TANIN-GOTO」というローマ字表記が。
「たにんごと」に対応した語か
「他人事」は本来「ひとごと」と読み、「たにんごと」は俗な読み方。ツイッターでは「『ひとごと』に対するのは『わがこと』」というコメントを頂きましたが、「ひとごと」でなく「たにんごと」と言ってしまえば、語調の近い「自分ごと」を使いたくなってしまうのでしょうか。
法政大での講座をまとめた「そろそろ『社会運動』の話をしよう」(田中優子編、14年)の副題は「他人ゴトから自分ゴトへ。社会を変えるための実践論」。書名にルビは振られていませんが、図書館のデータベースなどで検索すると、やはりこの「他人ゴト」は「たにんごと」と読むようです。「自分ごと」は、俗読みの「たにんごと」に対応する俗語と位置づけられるのかもしれません。
「個人的な問題」としての「自分ごと」も
ツイッターではまた、「私事(わたくしごと)」の意味で「自分ごと」が使われることがあると教えていただきました。毎日新聞でも、1996年に作家の水上勉が「ここで、自分ごとに少しふれておく」と導入に使っている例がありました。だとすると「自分ごと」には、「他人だけの問題ではない、自分の問題でもある」という使い方と「自分の問題であって、他人の問題ではない」という使い方があることになります。
これはやはり誤解のもとになりうるでしょう。例えば「健康は自分ごとだ」といったら、「自分も体に気をつけなきゃ」と言っているのか「自分の体のことは他人には関係ない」と言っているのか、両様に解釈できてしまいます。
使用は避けた方が無難
そういう事情も踏まえ、アンケートの結果の通り、「自分ごと」は基本的に使わない方が無難でしょう。ビジネスのキーワードとして使われたり、誰かの発言として引用されたりする場合には、かぎかっこをつけて特殊な語であることを明示するなどの対応があった方が良さそうです。
(2019年04月05日)
「核兵器を巡る問題を『自分事』ととらえる」「政治とは人ごとではなく、身近な『自分ごと』」など、「自分ごと」という言葉を新聞記事でも時折見かけます。
毎日新聞(東京本社版)で「自分事」「自分ごと」を検索してみると、2013年までは年に1件あるかないかだったのが、14年以降は年に5件程度。それほど多くはありませんが、増加傾向にはあるようです。
辞書には見つからず、確立された言葉とは言い難いようです。個人的にはあまりしっくりこず、「自分のこと」「わがこと」ではだめなのだろうかと考えてしまいます。
しかし小泉進次郎衆院議員は朝日新聞のインタビューに、人口減少に対して国が無策だったことを問われ「おそらく『自分ごと』ではなかったからですよ。僕らは全員が自分ごとだった」と答えていました(17年1月17日朝刊)。松江市では、原発を自分の問題として考える「自分ごと化会議」という住民協議会があるという記事も見つかり、公の場面でも使われているようです。現在のみなさんの捉え方が気になります。
(2019年03月18日)