「物議を○○」という言い回しについて伺いました。
目次
8割以上が慣用の「醸す」を選ぶ
世間の批評や議論を引き起こすこと。どの言い方がなじみますか? |
物議を醸し出す 4.4% |
物議を醸す 81.6% |
物議を呼ぶ 14.1% |
本来の使い方とされる「物議を醸す」が8割を超え、浸透していることがうかがえます。
慣用以外でも意味は通じる
「物議を呼んだ内閣法制局長官の発言」というくだりを目にして「これは直すんだっけ?」としばし迷ったのは「物議を呼ぶ」でも意味は十分伝わってしまうため。
毎日新聞用語集には「物議を呼ぶ→物議を醸す」とあり、ルール上は直すと定められています。従って、ここは素直に「物議を醸した~」と直したのですが、これはどういう理由で直すんだったかな、というのが少し引っかかりました。
2011年度の文化庁「国語に関する世論調査」でも「物議を醸す」を本来の言い方としています。この調査では「物議を醸す」が58.0%、「物議を呼ぶ」が21.7%で、今回のアンケートよりも「呼ぶ」が多いのが目を引きます。
「醸す」以外の用例もあるが
新聞・通信各社の用語集は毎日新聞社とほぼ同様で、「物議を呼ぶ」は「物議を醸す」ないし「論議を呼ぶ」に直すよう案内しています。
国語辞典を見てみると「物議を呼ぶ」についてはっきり指摘しているのは明鏡国語辞典(2版)。[注意]として「『物議を醸し出す』は誤り。また、『論議を呼ぶ』と混同した『物議を呼ぶ』も本来は誤り」とあります。「物議を呼ぶ」については「~醸し出す」と差を付けて「本来は」と入れており、「醸し出す」よりは「呼ぶ」の方がよく使われること、意味が通じやすいことがにじむのが面白いところです。
辞書編集者の神永暁さんの「微妙におかしな日本語」(草思社)では「『物議を呼ぶ』はおそらく『論議を呼ぶ』との混同であろう」としつつも、日本国語大辞典(2版)に引かれた戦前の大佛次郎の用例を挙げて、比較的古くから使われていることを示しています。神永さんは「物議を起こす」という例も引きつつ、「物議」は「醸す」とだけ結びついているわけではないことがわかるとして、「物議を醸す」以外の言い回しが「誤用だと否定する根拠はないのかもしれない」と結んでいます。
違和感避けるなら慣用優先で
「物議を呼ぶ」でも「誤用」とは言い切れない、というのは「やっぱりなあ」という感じがします。校閲記者としては、慣用が定着している言い回しについては、読者に違和感を持たれるのを避けるために慣用を優先するのが普通ですが、一般的には「物議を呼ぶ」にもさほど目くじらを立てる必要はなさそうです。もっとも「醸し出す」はこの「毎日ことば」でも、意味の上からやや違和感があることを指摘しています。避けた方が無難でしょう。
(2019年04月02日)
「物議」という言葉、見たことがないという人は少ないと思いますが、ある定型の言い回しでしか用いないかもしれません。意味は「世間の批評。とりざた」(大辞林3版)で、定型は「物議を醸す」。「世間の議論を引き起こす」(同)ことです。
これが時に「物議を呼ぶ」という形で原稿に現れます。毎日新聞用語集は「誤りやすい表現・慣用語句」の欄で「物議を呼ぶ→物議を醸す」と直すよう案内しており、他の新聞社や通信社の用語集もほぼ同様。一部、直し例に「論議を呼ぶ」を含むものもありますが、「物議を呼ぶ」は「物議を醸す」と「論議を呼ぶ」の混用だと言うのでしょう。文化庁の2011年度「国語に関する世論調査」でも「物議を醸す」を本来の言い方としています。
ただし、青空文庫で検索してみると「物議を起こす」「物議が起こる」という例も出てきます。もしかすると、定型はさほど強固なものではないのかもしれません。
なお、物議を「醸し出す」もたまに見かける書き方ですが、このサイトでも取り上げたことがあるように、通常は誤りとされます。
(2019年03月14日)