「柔道」の意味で「やわら」という場合の書き方について伺いました。
目次
「柔の道」が8割占める
柔道のことを指す「やわらの道」。漢字を使うなら、どう書きますか? |
柔の道 79.8% |
柔らの道 7.5% |
上のいずれでもよい 4.4% |
平仮名がよい 8.3% |
送り仮名をつけない「柔の道」が8割を占め、浸透していることがうかがえます。回答の際に見られる解説で挙げた美空ひばりさんの歌や、浦沢直樹さんの漫画「YAWARA!」の影響が大きいのかもしれません。
国語辞典は「柔(ら)」が多数
まず国語辞典を引いてみます。職場の辞書15点を見たところ、見出しの表記は
・「柔ら」(「和ら」「軟ら」を併記するものも含む)とするものが6点
・「柔(ら)」が7点
・「柔」(「柔術」を併記するものも含む)が2点
でした。どちらかといえば「柔ら」が多数派ではありますが、「柔」との間で揺れている様子がうかがえます。明鏡国語辞典(3版)のように見出し語は「柔ら」としつつも、注記して「『柔』も好まれる」とするものもあり、辞書を表記のよりどころとするのは難しく感じます。
「柔らの道」と定める新聞・通信社も
新聞社・通信社の用語集で、柔道の意味で「柔ら」を載せている社は7社中3社ありました。うち2社では「柔らの道」という用例を挙げています。
新聞協会の用語担当者の集まりで、この表記が取り上げられたことがあります。用語集に「柔ら」の記載がある社で、記事に見出しを付ける整理記者が「柔」としたいといいルールの変更を求めてきたが、どう考えるべきかという話でした。
当時の話し合いでは、表記を定めていない社では「柔」だけで「やわら」と読ませている社が多く、慣用として認められている可能性が指摘されました。一方、「ら」を送ることで「やわら」という読みを決定でき、読みやすさを考えれば「柔ら」の方がよいとする意見も。ただし、今回のアンケート結果は「柔」であっても「~の道」と続くなら大多数の人が「やわら」と読むことを示しており、「柔の道」は常用漢字表から外れる読み方であるとしても、読みにくいと感じる人は少ないようです。
慣用として認めてよさそう
バルセロナ五輪での金メダルが印象深い古賀稔彦さんの死去を報じるにあたり、毎日新聞の運動面には「『三四郎』柔の道一直線」という見出しが載りました。「三四郎」は古賀さんが「平成の三四郎」という異名を取っていたことにちなむものですが、「柔の道」については特に議論にもならず、送り仮名なしで通ったようです。
後日、同僚とこの表記について取り上げた際には「まあ読める人は『やわらのみち』でいいし、もし『じゅうのどう』と読んでしまったとしても意味は通じそう」という話になりました。「『最高』を『最の高(さいのこう)』と言うやつみたいだなあ」と思いましたが、アンケートの結果を見る限り「やわら」の読みを不安視する必要は小さく、慣用として認めて支障ないように感じました。
谷さんの表記は「ヤワラちゃん」
ところで「柔=やわら」とする読み方については、回答から見られる解説では美空ひばりさんの歌「柔」を挙げましたが、校閲のツイッターには「柔ちゃん」「猪熊柔」という反応が寄せられました。「柔ちゃん」は柔道選手として五輪メダル5個を獲得した谷亮子さんを指してのことかもしれません。しかし、谷さんが活躍していた当時の新聞などは「柔ちゃん」と書かず、ほとんどの場合は「ヤワラちゃん」と表記しているはずです。
「ヤワラちゃん」の呼称の由来である「猪熊柔」は浦沢直樹さんの漫画「YAWARA!」の登場人物である、軽量でありながら女子無差別級で活躍する天才柔道選手。柔の祖父である柔道家の著書が「柔の道は一日にしてならずぢゃ」というもので、「柔の道」という表記がなじみやすいというのも、そのあたりに表れているかもしれません。
(2021年04月27日)
バルセロナ・オリンピックの柔道男子の金メダリスト、古賀稔彦さんが亡くなった折、毎日新聞の運動面は「『三四郎』柔の道一直線」という見出しを付けました。何だかいろいろ混じっている気もしますが、古賀さんがスポーツ選手であると同時に“スター”でもあったことを伝えようとしたのだろうと感じました。
ただ一つ、気になったのは「柔の道」という表記です。常用漢字表は「柔」の音訓として音読み「ジュウ」、訓読み「やわ-らか(い)」を認めていますが、単独で「やわら」とする読みは認めていません。共同通信の用語集「記者ハンドブック」13版は、「やわら」の項目を置き「柔ら〔柔道〕柔らの道」とする表記を載せています。
もっとも、「柔」のみで「やわら」と読むのは美空ひばりの歌などでおなじみでもあるでしょう。むしろ「柔ら」の表記に違和感がある人も多いかもしれません。この機会に皆さんがどう感じるか、伺ってみようと考えました。
(2021年04月08日)