「勝ち抜けた」と言うか「勝ち抜いた」と言うかを伺いました。
目次
「勝ち抜いた」が最多、「使い分け」も多い
2チームが予選リーグを「勝ち○○た」――カギの中に入るのは? |
勝ち抜いた 41.4% |
勝ち抜けた 15.5% |
上の二つは同じこと 7.5% |
上の二つは意味が違い、文脈で使い分ける 35.6% |
「勝ち抜いた」を選んだ人が最多で4割強でした。一方、「文脈で使い分ける」とした人が3分の1ほどおり、「勝ち抜いた(勝ち抜く)」と「勝ち抜けた(勝ち抜ける)」の間で使い分けが生じていることを示唆しています。
「勝ち抜く」と異なる「勝ち抜ける」
最近の記事で見たものから例を挙げてみます。「2戦合計3―3で並び、アウェーゴール数で上回る○○が勝ち抜ける結果に」。これは「勝ち抜く」とは微妙にニュアンスの違う言葉のようです。予選や1次リーグを通過するという意味であって「次々に相手を破って勝ち通す」(広辞苑7版)のような、勝ちに勝つという意味とは違います。
「抜ける」の「そこを通って向う側へ出る」(同)という意味がメインで、同点でも1勝1敗でもルール上相手を上回るなら「勝ち」と言える、という考え方の「勝ち」がかぶさった形でしょうか。もっとも「抜ける」だけでは「脱落する」という意味もありますから、「勝ち抜ける」でなければ上の段階へ進むということが分かりにくいかもしれません。
負けても「勝ち抜け」
回答から見られる解説で挙げた例はもっと端的でした。「日本は負けても他の結果次第で勝ち抜けの可能性がある」。「負けても(中略)勝ち抜け」と言っているわけですから、やはり勝ち通す意味の「勝ち抜く」とは違う言葉です。言い換えるとすれば「1次リーグ通過の可能性がある」「決勝トーナメント進出の~」などとなるでしょう。「勝ち抜ける」は「上の段階へ進む」ことと言ってよさそうです。
ツイッターでは、「抜いた」は実力で勝っていったという印象、「抜けた」は運も味方して勝てたという印象が残る――というコメントがありました。確かに「勝ち抜けた」というと「結果的に」というニュアンスを帯びるようです。運が良ければ、勝ち抜くことはできなくても勝ち抜けられる場合がある、ということでしょうか。
辞書への採録はこれからか
アンケートは、どの言葉を使うのが皆さんにとって自然かを伺うものでした。一般的にはまだ「勝ち抜く」が主流かもしれませんが、「勝ち抜く」と「勝ち抜ける」を使い分ける意識が生まれていると感じました。「勝ち抜ける」を積極的に採録した三省堂国語辞典(7版)の説明は「『勝ち抜く』の新しい言い方」というものでしたが、実際の用法は少し違う方向へ進みつつあるようです。次の版で新しい語釈が加わるか、あるいは他の辞書は今後どうするか、今から気になるところです。
(2019年03月29日)
「勝ち抜く」と「勝ち抜ける」という二つの語形に関わる質問です。
「勝ち抜く」の意味は「①次々と勝つ。勝ち進む。②努力して、最終的な勝利を得る」(大辞林3版)。②は「やり抜く」「がんばり抜く」などと同形ですが、①はどうでしょう。「抜く」という語の「突き破る」(同)というニュアンスを持たせた使い方に見えます。
一方、「勝ち抜ける」はまず「勝ち抜く」の可能形、「勝ち抜くことができる」という意味として見かけますが、時として可能形ではない「勝ち抜ける」が現れます。
調べた範囲で唯一載せていた辞書は、新しい用法を積極的に採用する三省堂国語辞典(7版)です。語釈は「『勝ち抜く』の新しい言い方」。つまり形は違えど同じ意味だということ。「予選を勝ち抜けるには得点力が必要だ」という用例は、「予選を勝ち抜くには……」としても同じだと言うようです。
しかし、例えば「日本は負けても他の試合の結果次第で勝ち抜けの可能性がある」というのはどうか。「勝ち抜け」は「勝ち抜ける」の名詞形ですが、この例は「通り抜ける」などのように「通過する」ことに主眼を置いた、「勝って抜ける」という言い回しに見えます。これも従来の「勝ち抜く」と同じと言ってよいのか、疑問が残ります。皆さんはどう感じるでしょうか。
(2019年03月11日)