「破天荒」という言葉の使い方について伺いました。
目次
「常識外れ」が過半数
「破天荒」という言葉、どんな意味で使いますか? |
誰もできなかったことをすること 37.6% |
考え方や行動が常識外れであること 52.1% |
どちらについても使う 10.3% |
「常識外れ」を選んだ人が過半数でした。本来の意味とされるのは「誰もできなかったことをすること」ですが、こちらは4割弱という結果。もっとも、本来の意味を知ってはいても、今は違う意味でも使うという人もいそうです。
「荒っぽい」という意味は含まず
「破天荒」というのは「天を破るほど荒っぽい」とでも読めてしまいそうな字面です。そういえば「北斗の拳」には「天破の構え」という技?が出てきましたが、「破天荒」も何だか強そう。2008年度の文化庁「国語に関する世論調査」では、「豪快で大胆な様子」という選択肢を64.2%の人が選んでいますが、「荒っぽい」「型破り」という意味を読み取ってしまう人が多いことをうかがわせます。
しかし、「荒」という文字の原義は、荒っぽいというよりは「荒れ地」や「荒廃」といった不毛さの方にあるようです。白川静の「字統」(平凡社)は「荒」の字について、死体が草間にうち捨てられている様子とし「荒野と荒饉(こうきん)の意とがある」と言います。「荒饉」は飢饉のこと。「字統」は「荒」を含む語を「全て生色なく、無秩序な状態を言う」とします。
「天荒」も「天地未開の時の混沌としたさま」(新選漢和辞典)という意味です。あとは回答から見られる解説に書いた通り。科挙の合格者が出なかった土地のことを「天荒」と言ったが、ついにそれを破る人が現れて天荒を破った、すなわち「破天荒」をなしたと言われたとのことです。しかし科挙の合格者が出ないからといって天荒とは、厳しいことを言ったものです。
問題行動=破天荒?
今回の質問のきっかけになった記事には、こんなくだりがありました。「輝かしい経歴に彩られる一方、飲酒や暴力で問題を起こし、破天荒な行動も目立った」。亡くなったスキー・ジャンプのマッチ・ニッカネン選手の評伝です。ニッカネン選手は選手として飛び抜けた実績を残した一方で、暴力事件で服役するなど、起伏に富んだ人生を送りました。その形容として「破天荒」がふさわしいかどうか。
この記事は毎日新聞の記者によるものではなく、通信社から配信されたものでしたが、その通信社の用語集は「誤りやすい語句」の欄で「破天荒」を挙げています。[注]として「本来はこれまでなし得なかったことをすることで、未曽有と同義。近年意味が拡大し、豪快で大胆な人の様子を表す場合にも使われている」と言います。しかし、「飲酒や暴力で問題を起こし」というのは「豪快で大胆」とも違います。もう少し反社会的というか、道徳面でも常識を顧みない感じです。「無軌道」とか「野放図」といった言葉の方が近かったかと思います。
字面に惑わされず、よく考えて使いたい
上に挙げたものはやや極端な例ですが、正直なところ、新聞に出てくる「破天荒」も「型破り」などに置き換えた方がよさそうなものが大半です。もっとも、記者の書くものは校閲で直すとしても、外部筆者が書いてきた場合には直しづらいという事情も働いているようですが……。
率直に言って字面に惑わされがちな言葉であって、文を書くときに使っても意味がきちんと伝わるかどうか。もし何かを書く折に「破天荒」を使いたくなったなら、そこは本当に「破天荒」でなければならないのか、一歩引いて考え直した方がよいと思います。何となく雰囲気で、というのは避けたいところです。
(2019年03月12日)
亡くなったスキー選手を紹介する記事で、偉大な業績に触れる一方、行状について「飲酒や暴力で問題を起こし、破天荒な行動も目立った」とするくだりを目にしました。その選手は夫人に対する暴行のかどで服役したり、飲酒で問題を起こしたりと、要するに問題行動の多い人でもあったのですが、それに絡めて「破天荒」としたことが目を引きます。
「破天荒」は中国由来の漢語で、意味ははっきりしています。いわく、中国・荊州は科挙の合格者のない「天荒」(未開の状態)の地であったが、ついに及第者が現れて「天荒を破った」、すなわち「破天荒」をなした、とのこと。つまり「誰もしたことのないことをすること」が「正解」です。
2008年度の文化庁「国語に関する世論調査」で「破天荒」の使い方について取り上げた際は、本来の用法である「だれも成し得なかったことをすること」が16.9%、「豪快で大胆な様子」が64.2%という結果で、旧来の用法を離れた使い方の普及ぶりが分かります。上で紹介した記事では「豪快で大胆」とも意味が違うようなので、選択肢の形は改めましたが、今回のアンケートでも同様の傾向が出るのではないかと予想します。
(2019年02月21日)