「雪辱を果たす」という言葉の使い方について伺いました。
「相手にやり返す」が3分の2
「雪辱を果たした」と言えるのは… |
以前敗れた相手に勝ったとき 65.9% |
以前の失敗を、別の機会の成功で帳消しにしたとき 16.3% |
上のどちらにも使う 17.8% |
3分の2の方が「以前敗れた相手に勝ったとき」を選び、出題者がまず思い浮かべる意味が多数派でした。しかし「以前の失敗を、別の機会の成功で帳消しにしたとき」に使う方も3割超。特に相手にやり返すということに限らず使う方も少なくありません。
大修館書店の運営するサイト「漢字文化資料館」で、この言葉に触れた記事がありました。「恥を洗い流すということで、四字熟語で言えば『名誉挽回』というのと同じ意味になります」とあり、恥をかかされた相手への仕返しに限らず使えそうです。しかしアンケートでは「やり返す」の意味で捉える方が多数派でした。その説明になりそうな部分が興味深かったので引用します。
中国では、この熟語を「雪耻」(「耻」は「恥」の異体字)と書くことが多いようです。日本語で音読みすればセッチとなるわけで、セツジョクとは違うことばとなります。少なくとも日本語の場合、「辱」という漢字は、「屈辱」「汚辱」「侮辱」など、単なる「はじ」ではなくて、他者から受ける「はずかしめ」(あるいは他者へ与える「はずかしめ」)の意味で使われることが多いように思われます。
この指摘の通り、単なる「はじ」を意味するときは「恥」の字が、「はずかしめ」を意味するときは「辱」の字が多く用いられます。そもそも訓読みなら「恥ずかしめ」とは書かずに「辱め」ですね。その「辱」を使うため「雪辱」には「やり返す」という印象が強いのでは、と推測できます。ただ漢和辞典を見てみると「恥」「辱」いずれの漢字にも「はじ」「はずかしめ」の両方の意味があるので、「『辱』の字を使う以上『雪辱』は辱めを受けた相手にやり返すときにのみ使うべきだ」と言うことはできません。結局、「以前の失敗を、別の機会の成功で帳消しにしたとき」に「雪辱」を使うことを否定する材料は見つけられませんでした。
三省堂国語辞典7版の「雪辱」の項には、「(勝負に勝って)前に負けたときのはじをそそぐこと。リベンジ」とありました。この「リベンジ」は1999年、当時プロ野球・西武のルーキーだった松坂大輔投手がロッテのエース・黒木知宏投手との投手戦に敗れたときに使った言葉です。その次の対戦で松坂投手は完封、黒木投手に投げ勝ちました。リベンジは達成され、流行語になったのです。当時の新聞記事では「雪辱」「仕返し」といった説明をつけていました。
その松坂投手は昨季まで数年間、故障で全く活躍できていませんでした。しかし今年、中日で6勝を挙げてカムバック賞を受賞しました。ふがいない成績という「恥」のまま引退せず復活したのはさすが平成の怪物。特定の相手に「リベンジ」したわけではありませんが、これも「雪辱」を果たしたと言えるでしょう。
(2018年11月20日)
社会人野球の日本選手権に出場するチームが「夏に都市対抗出場を逃した雪辱を期す」という記事を読んで、「雪辱」とはこういう場合でも使えるのだろうかと疑問を持ちました。
「雪」は訓読みでは「すす(ぐ)、そそ(ぐ)」となり、雪辱は「屈辱、恥を拭い去る」という意味になります。とするとスポーツであれば、やはり一度負かされ恥をかかされた相手に勝ったときこそが雪辱なのでは、と考えてしまいます。新明解国語辞典(7版)も「以前はずかしめられた相手に対して、なんらかの方法で見返すこと」としています。しかし「恥をそそぐこと。名誉をとりもどすこと」(新選国語辞典9版)などとして、「やり返す」ことに限らず使えると読める辞書の語釈もあります。
新聞でも、春のセンバツ高校野球で初戦負けしたチームが夏の甲子園で別の相手を倒して「春の雪辱」と書かれたり、さらには映画のアカデミー賞を受賞して「賞を逃した昨年の雪辱」と書かれたり。思わしい結果が出なかったことを恥・屈辱と捉え、その後の成功によって帳消しにすれば恥はすすがれたと考えられるのかもしれません。
(2018年11月01日)