「エモい」という言葉について伺いました。
目次
「分かる」が7割、「使う」は2割弱
「エモい」という言葉、どうでしょうか。 |
意味は分かるし、自分でも使う 17.1% |
意味は分かるが、自分では使わない 53% |
言葉の存在は知っているが、意味を理解しているか自信がない 29.7% |
言葉の存在を知らない 0.2% |
「エモい」という言葉の意味が分かるか、また自分でも使うかどうかについて伺いました。結果は「分かる」が7割に達した一方、「自分でも使う」とした人は2割弱にとどまりました。年齢層によるかもしれませんが、意味は分かっても使うのは……という人が多い言葉ではあるようです。
「エモい」は「あはれ」に通じるか
「エモい」を見出し語として取り上げている国語辞典は、出題者が見た範囲では4点ありました(大辞林4版、三省堂国語辞典8版、明鏡国語辞典3版、三省堂現代新国語辞典7版)。三省堂国語辞典の説明が一番詳しいので、そちらを引きましょう。
〔俗〕心がゆさぶられる感じだ。「冬ってエモいよね」〔「エモな気持ち」のようにもいう〕【由来】ロックの一種エモ〔エモーショナル ハードコア〕の曲調から、二〇一〇年代後半に一般に広まった。古語の「あはれなり」の意味に似ている。
由来についてはここでは深入りしません。辞書では単に「エモーショナル」を由来とするものもあり、単語としてはその通りですが、音楽方面から使われるようになったというのが実情のようです。
気になるのは「あはれなり」という説明。「エモい」は「三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2016』」で2位に入ったのですが、当時の選評でも下記のように説明されていました。
「エモい」は、感動・寂しさ・懐かしさなど、漠然としたいろいろな感情表現に使われます。古代には、これとほとんど同じ用法を持った「あはれ」ということばがありました。「いとあはれ」と言っていた昔の宮廷人は、今の時代に生まれたら、さしずめ「超エモい」と表現するはずです。
「あはれ」の語感と「エモい」が近いということは、美意識に関わる感覚やしみじみとした情感に寄った言葉だということになります。
ウェブ上で参照できる「『エモい』という感情に関する考察」という論文(「言語処理学会 第29回年次大会 発表論文集」所収)では、「若者世代」に「あなたは『エモい』をどんな意味で解釈していますか? 近いものを3つ選んでください」と質問したアンケートの結果が紹介されています。選択肢は「①懐かしい ②ノスタルジー ③美しい・綺麗 ④嬉しい ⑤悲しい ⑥虚しい ⑦寂しい ⑧涙が出そう」というもの。
最多の回答は「美しい・綺麗」で69.5%。以下、「懐かしい」62.2%「ノスタルジー」50%、「涙が出そう」46.3%と続きます。この結果は「あはれ」という言葉の意味「①しみじみとした情趣がある。趣が深い。②かわいい。いとしい。なつかしい」(小学館 全文全訳古語辞典)になじみます。三省堂国語辞典の説明は理由のあるものと言えそうです。アンケートでは3割の人が「意味を理解しているか自信がない」(出題者もこのように思っていました)という選択肢を選びましたが、ある程度はイメージがつかめるのではないでしょうか。
「エモい記事」はどんな記事
今回の質問のきっかけになったのは、朝日新聞デジタルに載った西田亮介・日本大教授による記事にでてきた「エモい記事」という言葉でした(その「エモい記事」いりますか 苦悩する新聞への苦言と変化への提言)。いわく「ナラティブで、エモい記事」とは、「地元で愛された店が閉店する」「学校教員の小話」「日々の記者の独白やエッセー」などを念頭に置いているとのことです。
新聞記事のジャンルとして市井の出来事を発掘する「街ダネ」のようなものは伝統的に存在しますが、こうした記事が特に1面に掲載されることへの違和感を西田さんはつづっています。一方で「ナラティブ型やエピソード型の記事のすべてが悪いわけではないし、それらを排除すべきだと言いたいわけでもない。結局のところ、バランスだ」とも述べています。
別の場所では「新聞社に余力があったころならともかく、いまはかぎられたリソースをいかに有効活用するかを考えないといけない」とも述べており(webゲンロン「エモい記事」に未来はあるか)、むしろ新聞に対して好意的に問題意識を提示しているようです。出題者が見る限りでは、一つの意見として筋の通ったものと感じられますが、結果的に「エモい記事論争」を招き一部で話題になりました(そうでなければ当方も西田さんの記事については知らないままだったかもしれませんが)。
まずはこっそり使ってみては
出題者にとっては何より、論争をする人たちが「エモい」を理解できているらしいということが驚きだったわけですが、今回のアンケートの結果では7割の人が「分かる」としています。自分から使うという人は2割弱にとどまっていますが、意味が通じないという心配はあまりしなくともよさそうです。
意味を理解しているか自信がないとした3割の人には「エモい」は「あはれ」に近いという見解を頼りに理解するのがよいかもしれません。何かを見たり聞いたりして感に堪えずしみじみする、などという場合には、胸の中でこっそり「エモい」とつぶやいてみてもよいのでは。
(2025年01月27日)
出題者が2024年に気になった言葉に「エモい記事」というものがあります。日本大教授の西田亮介さんが朝日新聞デジタルに載せた文章をきっかけに、「エモい記事」論争が起こりました。論争の中身についてはここでは触れませんが、気になったのは「皆さん、『エモい』で話が通じるの?」ということでした。
カタカナ表記の外来語(の一部)に形容詞の語尾「い」を付けて形容詞化した言葉としては「エロい」「ナウい」「グロい」の三つがあり、四つ目に当たると言われているのが「エモい」です。「エモ」は英語のエモーショナル(emotional、感動的な)の一部で(直接の由来はロックのジャンルからとも)、2016年の「三省堂 辞書を編む人が選ぶ今年の新語」で2位に入りました。新明解国語辞典風とされる語釈は「接する人の心に、強く訴えかける働きを備えている様子だ」というものです。
ただし、この語釈だと「エモい記事」は悪くないということになりそうです(もっとも西田さんも「エモい記事」を全否定しているわけではないと言います)。もう少し捉えどころのないニュアンスがあるのではないかとも思い、出題者にとっては「理解しているか自信がない言葉」なのですが、皆さんはこの言葉、理解して使うことができているのでしょうか。
(2025年01月13日)