「逆転」が「逆点」に。今ではレアケースですが、手書きが残っていた時代にはこうした「一見それらしい漢字と取り違える」誤植は少なからずありました。毎日新聞の用語集には今でもこの種の誤字が多く挙げられており、中には妙に納得してしまうものも……。
「逆点」は手元の辞書には記載が見当たりません。通常は変換候補にも出ないと思われますが、例外的に出てきてしまったか、何らかの事情で1字ずつ変換したことが考えられます。
今の校閲の現場で漢字の間違いといえば「体勢」と「体制」のような同音異義語の誤りが圧倒的に多く、「逆点」のようなケースはほとんど見かけません。しかし、毎日新聞用語集の「き」の項には、
▲逆点勝ち→逆転勝ち
という記載があります(▲は誤りの意)。わざわざ注意喚起するくらいですから、過去にはそれなりに発生した誤植だったのでしょう。
用語集を見渡すと、この手の「一見それらしい漢字」の誤植例は最新版でも多く挙げられていました。
▲遺牌→位牌(いはい)
▲宇頂天、▲有頂点→有頂天
▲決審→結審
▲血膜炎→結膜炎
▲苦面→工面
▲惨々→散々
▲尊族→尊属
▲着腹→着服
▲黙否権→黙秘権
▲裕余→猶予
「くめん」は苦しそうだから、「そんぞく」は家族に関する言葉だから、「ちゃくふく」は私腹を肥やすから……など、間違えやすい理由を想像すると妙に納得してしまいます。漢字テストが思い起こされるようでもあります。
これらの誤字に関しても、実際に記事を読んでいて目撃することは今では非常にまれです。用語集は定期的に改訂されており、次回の改訂に際しては、整理の対象として議論に上る可能性もあるでしょう。ただ、今でも読者投稿欄など一部では手書きから活字に起こす作業があります。校閲にも手書きは残っています。「逆点」のような例が実際にあることも考えると、なかなか簡単に削除とはいかないかもしれません。