「好事魔多し」という言葉について伺いました。
目次
「正解」の区切り方・読み方が6割弱
「好事魔多し」という言葉――意味はわかりますか? |
わかる 70.5% |
わからない 29.5% |
どう区切って読むのがよいと思いますか? |
こうじま、おおし 8.5% |
「好事魔多し」については、意味が「わかる」とした人が7割、「わからない」とした人が3割でした。正しいとされる区切り方・読み方を選んだ人は全体の6割弱でしたが、意味がわかるかどうかが読み方にも影響している様子がうかがえました。
「好事=よいこと」なら「こうじ」
「好事魔多し」は「よいことにはとかく邪魔がはいりやすい」(日本国語大辞典2版)という意味の言い回しです。「好事」は「こうじ」と読み、「よいこと。都合のよいこと。結構なこと」(同)を意味します。「こうず」とも読みますが、その場合はもっぱら「めずらしいことや変わったことに興味を持つこと」(同)を指します(もっとも、こちらの意味で「こうじ」と読んでも誤りではありません)。「好事家(こうずか)」といえば風変わりなものを好む人、物好きな人のことです。
今回の「好事魔多し」の区切り方については、文化庁の2023年度「国語に関する世論調査」で取り上げられました。そこでの割合は以下の通り。
(ア)「好事魔、多し」と区切って言う 65.3%
(イ)「好事、魔、多し」と区切って言う 30.6%
(ア)と(イ)の両方 2.8%
無回答 1.3%
国語世論調査では、漢字には読み仮名が振ってあり、読み方は問題にされていませんでした。この調査では、本来の区切り方とされる(イ)を選んだ人が3割にとどまり、3分の2は「好事魔」と「多し」の間で区切っていました。「好事家」に引っ張られたのかねえ、とは職場の先輩との話で出た言葉でしたが、「こうじま」と読み仮名があっても「好事魔、多し」になるというのはちょっと意外で面白いと思います。
意味がわかるかどうかで区切り方・読み方に差
今回のアンケートの結果は、国語世論調査に比べるとだいぶ「正解」を選んだ人が多かったようです。全体でも6割近くが「こうじ、ま、おおし」と読み方も標準的で、区切り方だけで言えば8割が本来の区切り方を選びました。
校閲センターのツイッターから「毎日ことばplus」のサイトに飛んで回答してくれた人が多いことだろうと思います。やはり校閲センターのツイッターを読む人には、言葉についての知識のある人が多いのだろうと推測しますが、差がついたものです。インターネットを利用した任意のアンケートなので、自信のある人が答えるという傾向もあるのだろうと思います
それでも、言葉の意味が「わかる」とした人と「わからない」を選んだ人とでは、割合に差が出ています。
(「わかる」を選んだ人)どう区切って読みますか?
・こうじま、おおし 6.2%
・こうずま、おおし 7.2%
・こうじ、ま、おおし 64.7%
・こうず、ま、おおし 21.8%
(「わからない」を選んだ人)どう区切って読みますか?
・こうじま、おおし 13.8%
・こうずま、おおし 18.7%
・こうじ、ま、おおし 39.1%
・こうず、ま、おおし 28.4%
「わかる」とした人では正しいとされる読み方・区切り方を選んだ人が3分の2近くでしたが、「わからない」を選んだ人では4割程度。「わかる」とした人で「こうず」を選んだのは計3割弱でしたが、「わからない」を選んだ人では計47.1%と、半数近くに上りました。意味が分からなければ「好事家」のような使い方のほうが、ただの「好事」よりもなじみがあると感じられ、「こうず」という読み方が援用されたのではないかと考えます。
「間髪(かんぱつ)」は新しい形が浸透
「好事魔多し」の場合は、意味がわかるかどうかが読み方に影響するのではないかということが気になっていたのですが、アンケートの結果を見ると、ある程度は影響しているのではないかと考えられます。
ただ、国語世論調査で同時に取り上げられていた「間髪を入れず」のように意味がわからないということのなさそうな言葉でも、本来の区切り方・読み方とされる「かん、はつを~」よりも「かんぱつを~」が浸透している場合があります。こうしたケースは「間髪」という新しい言葉が定着したと考えるべきで、「好事魔多し」のようになじみが薄く意味がわからない人もいる言葉とは異なるのかもしれません。
出題者としては「好事魔」が定着する日は来ないような気はしますが、仮に定着するとすれば、本来の意味の「よいことに対する邪魔」よりは「度を越した好事家」の意味になるような。それはそれで面白いと思うのですが、どうなることでしょうか。
(2024年10月07日)
先ごろ発表され2023年度の文化庁「国語に関する世論調査」に、「好事魔多し」をどう区切って言うか、という質問がありました。この言い回しの意味は「よい事には邪魔が入りやすい」(岩波国語辞典)というもの。「好事(こうじ)=よい事」には「魔(邪魔)」が「多し(入りやすい)」ということで、「こうじ、ま、おおし」と区切ります。
しかし、国語世論調査の結果では「好事魔、多し」という切り方が6割を超えたとのことで、ちょっと驚きました。「好事魔」という何やら怪しげなものがたくさんいる、という受け取られ方をしているのかと。物好きな人を指して「好事家(こうずか)」という言葉がありますが、その類推で「好事魔」というものがあると考える人もいるのかもしれません。
しかしそもそも、「好事魔多し」という言い回しの意味がわからないなら、どのように区切って読むかも分からないのではないかと感じます。文化庁の調査ではそのあたりにちょっとモヤモヤが残るので、改めてうかがってみました。どれを選んだでしょうか。
(2024年09月23日)