イベント「国語辞典ナイト」で繰り広げられたビブリオバトル後半戦は、すべての辞書が対象。推し辞書プレゼンは過熱します。校閲記者も更に前がかりになっていきます。
イベント「国語辞典ナイト」の辞書ビブリオバトル。国語辞典しばりだった前半戦につづく後半戦は、しばりなく、あらゆる辞書の中から選ばれた「推し辞書」が登場しました。
【西川桜衣】
目次
飯間さん「五体字類」
前半と同じ飯間浩明さんからスタート。飯間さんの推しは……
「五体字類」。意味なしポーズについ笑ってしまいます、かわいい!(笑い)
気を取り直して「五体字類」についての紹介を見ていきます。
「五体字類」は書の権威の筆跡を収集し、分類したもの。
ここまでで筆者は他とは違う、「変わった」辞書というような印象は全く受けなかったのですが、飯間さんは自身が使っていた「初版61刷」について「なかなかクセの強い字書」としていました。
気になって聞いているとたしかに……先頭に挙げられた字が教科書で習う書体と違ったり、
知らない書体があったり、(右端「有」、上から2文字目)
字が突然大きくなったり……
まさにやりたい放題、という印象を受けました(笑い)。さらにはこんなページまで。
一方で最新の版では楷書が先頭に追加されるなどして、かなり見やすくなっているとのこと。
それでも楷書だけでなく、他に挙げられているような書体でかけるようになったらかっこいいですよね。煩雑で難しい書体ほど調べて書けるようになってみたくなります。
ちなみに、稲川智樹さんは手書きの原稿を校閲する際に、こちらを使うそうです。
現在社内で手書きの原稿を目にすることはほとんどありませんが、自分にとって、とても身近な使い方で感動しました。
筆者も達筆で書き込んである指示を見たらおもむろに引いてみたりしようかな。
西村さん「隠語辞典」
次は西村まさゆきさんの推し、「隠語辞典」。
名前を聞いただけでわくわくする辞典ですが、中身もやっぱりおもしろい……!
たとえば「ホワイト」。
みなさんはなんの隠語かわかりますか? 正解は……
「白木屋を集合場所とした不良団の名」。
筆者は初めて聞きました……「白」という色の自分のイメージと、「不良団」という意味にギャップを感じ、かっこいい……と思ってしまいました。自分の名前に色が入っていたら隠語にしたのに……と残念に思います。(単純)
さらにこんなひねりのある隠語も。
結うに結われぬ、から、言うに言われぬ、で言葉では言い表せないことを指す。
なるほど! 納得しました。これ使えたらちょっと楽しいですかね……。
「このケーキ、見た目はかわいいけど、味がちょっとね」
「そうだね、ぼうずのちょんまげって感じかなー」
……友達なくしそうでした。いい使い方が知りたいです。
このほかにも聞いたことがある隠語、思わず突っ込みたくなるような隠語があって、とても興味深かったです。使う前から、タイトルを見ただけで「面白そう、気になる」と思わせてくれる辞典であることも、「辞典」自体に興味を持ってもらえるきっかけになりそうだと思いました。みなさんにもぜひ、「使える隠語」を探してみていただきたいです!
稲川さん「NHK日本語発音アクセント新辞典」
つづいて稲川さん。「NHK日本語発音アクセント新辞典」
稲川さんは放送部に所属していた学生時代にも愛用していたとのこと。
名前にあるように、放送など公的な場面で使われる「アクセント」を掲載した辞書ですが、この辞書は「国語辞典を補う」辞書、との説明がありました。
たとえば、終止形以外の活用形のアクセントがわかったり、
助数詞がついたときの発音とアクセントがわかったり。
国語辞典ではここまで「網羅的に書くのには限界がある」と飯間さん。
アクセントを調べるだけでなく「言葉のかたちを調べる」ことができる、という稲川さんの説明で「補う」という役割に納得しました。さらに、司会の古賀及子さんの「『しゃべり』だけのものじゃない」という一言で、紹介を聞く前の「辞書名だけで判断する自分」が完全にいなくなりました……。
見坊行徳さんは「ふりがなをふる」作業の際、濁点が必要かどうか調べるために使うそうです。
筆者も普段の仕事で悩むことが多い部分なのですぐ頼りたいと思いました。
見坊さん「早稲田大辞書 2015」
最後は見坊さんの推し辞書。「早稲田大辞書 2015」
キャンパスで使われる言葉の辞典で、学生時代に見坊さん自身と稲川さんが中心になって作ったものです。
一見、普通の大学用語の辞典に見えましたが、この辞書には見坊さんたちによる隠れた「試み」がありました。
まず挙がったのは「語釈における『置き換え主義』の徹底」。
語釈の形を、文中で使われる見出し語の部分にそのまま置き換えられるように統一しています。たとえば、
筆者の母校でもあるので、この語にはかなり聞き覚えがありますが……それはさておき(笑い)、最初に挙げられている「馬鹿な早稲田大学」という語釈は、見出し語の「バカ田大学」と置換して文中で使うことができる形になっています。同じ文で、「そういうこともあるよね。『バカ田大学』だから」とも使え、「そういうこともあるよね。『馬鹿な早稲田大学』だから」とも使える、ということです。(あくまで筆者の例文です)
一般的な辞書では、このように置き換えられる語釈と、「の略」「という語」などで結ばれていて、置き換えのきかない語釈が混在していることがあります。
そこで、この辞書では最初の一文に置き換えができる語釈を置くよう、「統一」を重視しているのです。
次に挙がったのは「トラブルシューティングの導入」。
自由度の高い学生語辞書だからこそ、「辞典は不完全である」ということを認めることができていて、「探したいことばが、ない」という項目では、なんとネット検索に頼る方法も提示しています。
疑問があって辞書を引いている人の、「答えにたどり着きたい」という気持ちに寄り添って手段を幅広く提示しているのです。
最後は「読ませる凡例」。
辞書には「凡例」が載っていますが、恥ずかしながら筆者も凡例を丁寧に読んだことがありませんでした……しかし、凡例を読んでこそ、その辞書を最大限に使いこなすことができます。
そこで早稲田大辞書では、凡例に漫画を取り入れています。
読んでほしい、と編集者側で思うだけでなく、「読ませるために全力を尽くした」(見坊さん)凡例で、使用者側に立って考えられているのがわかります。
ちなみに実際に読んでみた筆者のお気に入りは付録の「終電時刻表」でした(笑い)。
ここにも、辞書を使う学生の視点が見えて、辞書そのものがとても身近な物に感じられました。
後半戦の勝者は?
ビブリオバトル後半戦も投票が行われ、結果は……
僅差で早稲田大辞書が1位でした!!(拍手)後半戦の投票も大盛り上がりで、登壇者のみなさんの熱が会場全体に広がっていました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。みなさんの「推し」は見つかりましたでしょうか。
気になった方はぜひ、図書館や書店などで手に取ってみるのをおすすめします。筆者も自分の「最推し」の辞書に出合うため、たくさんの辞書に触れていこうと思います。