「足がかり」という言葉に「つかむ」を合わせる言い回しについて伺いました。
目次
3分の2は「違和感強い」
「足がかりをつかむ」という言い回し、気になりますか? |
問題ない 12.2% |
違和感はあるが、許容範囲 22.8% |
違和感が強い。「足がかりを得る」などとしたい 65% |
「足がかりをつかむ」という言い回しについては、強い違和感を示す回答がおよそ3分の2を占めました。一部の国語辞典にも用例として記載のある表現ですが、違和感を持たれやすい言い回しと考えた方がよいでしょう。
足がかり=手がかり?
「足がかり」には二つの用法があります。一つは物に即した使い方で「高い所へ登るとき、足を掛けて助けとする所。また、物。足場」(大辞泉2版)というもの。もう一つは比喩的な意味。「物事をする場合のきっかけ。糸口。『出世の足掛かりをつかむ』」(同)のように説明されます。大辞泉のように、比喩的な意味の場合に「足がかりをつかむ」というフレーズが現れます。他にも現代国語例解辞典(5版)、明鏡国語辞典(3版)、旺文社国語辞典(11版)に同様の用例が記載されています。
比喩的な意味としては「手がかり」と同じように使うものとして捉える向きもあり、だからこその「つかむ」なのかもしれません。「物事をしようとするときに、手がかりとなるもの」(明鏡)、「物事をする時の手掛かりとなるもの。糸口」(大辞林4版)、「物事をしようとするときの糸口。手掛かり」(現代国語例解)、「ものごとをするときのいとぐち(・手がかり)」(三省堂現代新国語辞典6版)――といった具合です。
しかし出題者としては正直なところ、「足がかり」を説明するのに「手がかり」でいいのかなあ、と思わないわけにはいきません。むろん言葉の意味を説明するのは、似た言葉との細かい差異の体系の中での作業になるので、使えるものなら何でも使うということになるのも理解できるのですが。「手がかり」よりも「足がかり」の方が体重をかけてもよさそうで丈夫かも、といったニュアンスを消しています。
即物的な意味も比喩的な意味も一つにまとめた岩波国語辞典(8版)の説明がスマートなので、これを引きましょう。
【足掛(か)り】次の行動に移るために設ける足場。「くぼみを足がかりにしてよじ登る」「紛糾解決の足がかりを得た」
なんだ、「足場」にしただけじゃないか、という声も出そうですが、即物的にせよ比喩的にせよ、そこから「次の行動に移る」と説明することで、足場としても一時的なものだということをよく伝えており、分かりやすいと思います。
「つかむ」は新聞のせいかも…
もっとも新聞では「足がかりをつかむ」はけっこう現れます。毎日新聞の記事データベース(東京本社版、地域面除く)では、「足がかり(足掛かり)をつか」の形で35年あまりの間に172件の記事が該当しました(「足がかりをつかって」とある1件を除く)。少ない数ではありません(「摑/掴」は常用漢字表に含まれていないため、新聞では基本的に使用されず。該当記事もゼロ)。
一方、おもに日本の近代文学作品を集めたインターネット上の図書館「青空文庫」で「足がかり(足掛かり)をつか(摑/掴)」で検索したところ、こちらは一件もヒットしませんでした。「足がかりとする」といった使い方が多いようです。国会の会議録検索システムでは、複数の表記を試した上で29件が該当。これは期間の長さ(1947~2023年)を考えると多いというほどではありません。新聞の用例がなぜ多いのかは不明ですが、もしかすると新聞のせいで、辞書にも「足がかりをつかむ」という用例が採録されたのかもしれません。
こだわりなければ「つかむ」は避けたい
アンケートの結果としては、3分の2が「違和感が強い」としており、「足がかりを得る」のような簡単な言い換えも可能なので、あえて「足がかりをつかむ」という言い回しを使う必要は感じません。特にこだわりがあるのでなければ、使用しない方が無難だろうと考えます。
(2023年09月11日)
原稿の中に出てきた「足がかりをつかむ」という言い回しに、ちょっと首をかしげました。「つかむ」は漢字で書くなら「摑む」。手偏の文字を使う言葉と、一義的には「高い所へ昇とき、足をふみかける所。足場」(広辞苑7版)と説明される「足がかり」を組み合わせるのはよくないかと感じたためです。▲もちろん、原稿の場合は比喩的な言い方で「事に着手するいとぐち。拠点」(同)といった意味です。元々の意味に縛られることなく、「チャンスをつかむ」のような使い方として「足がかりをつかむ」と言ったとしても問題はないのかもしれません。現に国語辞典でも「足がかりをつかむ」という用例を挙げているものが複数あります。▲ただし、気になるかどうかというのはまた別の話ではないかとも思います。やっぱり皆さんも気になる表現なのか、それとも単に出題者が気にしすぎなのか、この場を利用して確かめてみたいと思います。
(2023年08月28日)