「雨模様」という言葉をどのように使うかについて伺いました。
本来の「降り出しそう」がほぼ半分
「雨模様」という言葉、どんな天気に使いますか? |
雨が降ったりやんだりする 39.7% |
今にも雨が降り出しそう 49% |
どちらにも使う 11.3% |
本来の用法とされる「降り出しそう」がほぼ半分を占めました。2010年度の文化庁「国語に関する世論調査」では、「雨が降りそうな様子」43.3%、「小雨が降ったりやんだり」が47.5%で、本来の用法が少数派。今回答えてくれた皆さんは、言葉の意味をよくご存じの方が多いようです。もしかすると、新聞記者よりも。
少年野球大会の開会式があったと伝える原稿に「あいにくの雨模様のため体育館での開催となったが……」とありました。雨が降りそうに見える、という段階でわざわざ会場を体育館に移すだろうか――今はインターネットでレーダー画像もアメダスも見られますから、場所さえ分かれば雨が降っていたかどうか見当は付きます。「これは実際に雨が降っていたのでは?」と問い合わせを出すと、「あいにくの雨のため……」と直りました。
それにしても、こうした原稿を見るにつけ、「雨模様」という言葉を使う記者はおおかたが「雨が降る空模様」を指して使っているのではないか、と思うのです。以前当ブログにあげられた記事「校閲を悩ます『雨模様』」でも、「『雨模様』を見かけた校閲記者は一度出稿元に天気を確認します。(中略)聞きに行くと、大抵は雨が降っていたことが判明します」とありますが、実感としてその通りです(言葉としての「雨模様」については上記記事にも説明がありますのでご覧ください)。
近ごろの新聞記者は言葉を知らないのだな、と思われそうですが……。記者側の意識をあえてそんたくすれば、はっきり「雨」「小雨」と書くよりは「雨模様」の方がいい感じで天気を表せるだろう、という意識を持っているのではないかと思います。はっきり「雨」というには雨の勢いが弱かったり、降ったりやんだりする場面もあるのでちょっと表現をぼやかしたい、と。その場合に都合良く使えそうな言葉として「雨模様」が選ばれているのではないでしょうか。もっとも、毎日新聞用語集では、そうした場合でも「雨模様」を使うのでなく、具体的に書くようにと促しているのですが。
毎日新聞の記事データベースで「雨模様」を検索すると、今年に入ってから33件の記事がヒットしますが、うち5件では「小雨模様」という表現が使われています。「小雨が降り出しそう」とわざわざ限定するような言い方はしませんから、このような表現を使う以上は実際に小雨が降っていたのでしょう。「雨模様」は雨が降り出しそうな場面ではなく、雨が降ってきてからの場面で使う言葉だ、という意識が浸透しているからこその「小雨模様」と言えます。書き方としては「小雨まじり」で十分だろうと思うのですが、こうした派生的な例を見ると、本来の使い方から外れた用法も定着しつつあるのだと感じます。
しかし、新聞記者には情報を端的に伝えてほしいものです。ぼやかした言い方を選ぼうとする意識はできるだけ排してほしいと思います。やはり校閲記者は「雨模様」を見かけたら、「雨、降っていたんじゃないですか?」と聞いてみるのがよいでしょうか。
(2018年10月05日)
「雨模様」は「雨催い(あまもよい、あめもよい)」が元の形と言われます。「催い」は「催す」と近い言葉ですから、何かが起ころうとする兆しがあること。ゆえに雨が降りそうな様子が「雨催い」です。ウェブ上の図書館、青空文庫で検索すると、宮本百合子の1921年の日記に「雨催いのはっきりしない日である」というくだりがあります。雨が降りそうで降らないから「はっきりしない日」なのでしょう。
「雨模様」も同様の意味になります。しかし最近では、雨が実際に降っている場合に使われることが多くなりました。2010年度の文化庁「国語に関する世論調査」で今回のアンケートと同様の質問をしているのですが、「小雨が降ったりやんだりしている様子」を選んだ人が47.5%で、本来の意味とされる「雨が降りそうな様子」を選んだ人の43.3%を上回っています。
「降ったりやんだり」が選ばれるに当たっては、「模様」という言葉が与える印象が働いているのではないかと思っています。「図形および色の組合せ」(岩波国語辞典7新版)という意味から、天候についても、雨が降ったり降らなかったりの組み合わせであると類推されているのではないでしょうか。もっとも「雨模様」の場合の「模様」の意味は「様子。ありさま」(同)というもので、天気に色や柄が生じるわけではないのですが。
(2018年09月17日)