「教え子」に「元」をつける言い回しについて伺いました。
目次
本来不要な「元」も有用
騒ぎを起こしたのは、△教授の「元教え子」だった――カギの中、どうですか? |
問題ない 18.5% |
「教え子」でよい。「元」は不要 30% |
「教え子」でよいが、「元」があると意味がはっきりする 51.5% |
「その人が教えた生徒や学生」(新明解国語辞典8版)とされ、過去の生徒などを指す言葉の「教え子」ですが、このごろは現在教えている相手についても使われます。そのためか、「元教え子」という書き方も見られるようになっていますが、今の生徒ではなく過去に教えた相手だということが分かりやすくなる点で、有用と認める人が多いようです。
近年の辞書は「今」「過去」併記が多数派
近代文学作品を扱う青空文庫で「元教え子」の用例がないかを検索してみましたが、「元の教え子」という記述が1件見られたのみでした。これも、その作品中の他の部分ではみな「教え子」で、意味としては「かつての生徒」として使っているものと思われます。「元の~」は「昔の」というほどの意味なのでしょう。やはり「教え子」は元々、過去の生徒のみを指す言葉だったとみられます。
2008年に出た三省堂国語辞典6版で「教え子」(「教え」の子項目)を引くと、「〔教室で〕教えを受けた人。弟子」と記されています。しかしこれが2014年の7版では「その先生が〈教える/以前教えた〉子どもや人」に変わりました(2021年の8版も同様)。近年の使い方として、過去の生徒のみでなく、今教えている相手を指すことが多くなっているという認識からでしょう。
職場にあった、2010年以降に改訂された国語辞典の最新版を確認してみました。11点中、「教師から見て、自分が教えた人。弟子」(広辞苑7版)のように「過去」のみを示しているものは4点。「以前教えた(今教えている)生徒・学生」(岩波国語辞典8版)のように「今」「過去」両方を示しているものが7点。「今」のみを示すものはありませんでした。現時点で、「教え子」は現在と過去、両方について使うという考え方が主流と言えます。
「元」が示す関係の距離
このように意味が広がるにつれ、「教え子」だけでは今の生徒か過去の相手かが分かりづらい、ということから「元教え子」も許容されつつあるようです。今回のアンケートでは半数が、「元」があると意味がはっきりする、を選択。「教え子」の旧来の意味は分かるけれども、現状では「元教え子」もありだと考えているようです。
一方、校閲センターのツイッターには「元教え子」について「破門されたのかと思う」という趣旨のコメントも寄せられました。正直なところ、出題者もそう感じます。こうした印象を利用して、たとえ過去に指導―被指導の間柄にあったとしても、今の関係を「教え子」という距離の近さでは表現しにくい場合に「元教え子」が選ばれるということも考えられます
毎日新聞の記事データベースで「元教え子」を検索してみると(東京本社版、地域面除く)、71件の使用例がありました。目立ったのは、大学教授が「元教え子」に刺殺されたという事件。同じ事件に関する記事が14件ヒットしました。悲惨な事件について記すに当たり、あえて教授と元学生との間に距離をとるため使われた「元教え子」の例と言えそうです。
(2023年02月16日)
「教え子」といったら「その人が教えた生徒や学生」(新明解国語辞典8版)のことで、過去に教えた相手を指すのが普通でしたが、近ごろでは現在教えている生徒などを指すことが増えています。そのため、辞書の説明も「以前教えた(今教えている)生徒・学生。弟子」(岩波国語辞典8版)のようなものが多くなっています。▲「教え子」の指す範囲が広くなったためか、「元教え子」という書き方を見るようになりました。旧来の意味からすれば、過去に教えたことがあるという事実は「元」になりようがなく、この「元」は不要なはずです。▲もっとも、この「元」は「現在教えている相手ではない」ということを示すための強調表現と受け取ることもできそうです。また「教え子」だと関係性が近過ぎると感じられるような場合に「元」を付けるということもあるかもしれません。皆さんはどう受け取るでしょうか。
(2023年01月30日)