ソチ冬季五輪の参加国に色づけをした地図の校閲をしていたときのことです。資料に参加国として「Dominica」とあったので、ドミニカはカリブ海にあったはず、と地図上に探しました。すぐに見つかりました。「ドミニカ共和国」。しかし、色がついていません。これはいけない、とデスクに相談しました。デスクは少し考えた上で一言。「ドミニカって二つあってな」。そうです。「Dominica」がつく国としては、「ドミニカ国」と「ドミニカ共和国」の二つがあるのです。ソチ五輪に参加したのは「ドミニカ国」だったので、ドミニカ共和国に色がついていなくても当然でした。次のことを勉強し直しました。
ドミニカ国・・・・・・英語では、Commonwealth of Dominica。カリブ海小アンティル諸島のドミニカ島全土を領土とする。首都はロゾー。公用語は英語。
ドミニカ共和国・・・・・・英語では、Dominican Republic。カリブ海のイスパニョーラ島の東部3分の2を占める。首都はサントドミンゴ。公用語はスペイン語。
どちらもカリブ海に浮かぶ島を領土としています。15世紀のコロンブス到達以後長くヨーロッパの国々などに支配されたことも共通しています。ドミニカ共和国は、同じ島の西にハイチ、さらに西の別の島にキューバ、ジャマイカ、東にはプエルトリコと名の知れた国や地域に囲まれています。対して「ドミニカ国」はドミニカ共和国の南東約1000㌔、カリブ海の東の果てに位置し、近隣には小さな島国が点在します。地図で両国を見分けるなら、位置もさることながら、島の大きさで一目瞭然です。例えば私が校閲した地図では「ドミニカ国」は点のような小ささで表されていました。実際は日本の奄美大島ぐらいの大きさだそうです。一方のドミニカ共和国はその約60倍の面積があります。
お恥ずかしいことに、Dominicaとして私が思い浮かべていたのはドミニカ共和国の方でした。大リーグの選手を輩出し、昨年のワールド・ベースボール・クラシックで優勝したことからも分かるとおりの「野球大国」。新聞では「共和国」の方が多く登場するのでなじみがあります。一方の「ドミニカ国」は、日本と貿易を行っており、日本が経済的援助も行っているので関係がないこともないのですが、どうもイメージを結びにくい……と思っていたら、ソチ五輪で冬季五輪に初参加ということで話題になりました。参加したのはノルディックスキー距離のゲーリー・ディシルベストリ選手(47)、アンヘリカ・ディシルベストリ選手(48)夫妻。「ドミニカ国」の出身ではないのですが(ゲーリーさんは米ニューヨーク出身)、慈善活動で「ドミニカ国」を訪れたところ市民権を与えられ、のちに趣味のスキーでの五輪出場を打診され、喜んで出場したとのこと。熱帯の国の冬季五輪初参加の背景にはこんなエピソードがあったわけです。
さて、このように紛らわしい国名ですが、「毎日新聞用語集」では「ドミニカ国」を「ドミニカ」、ドミニカ共和国を「ドミニカ共和国」と表記するよう定めています。記事を見ると、ドミニカ共和国は本文中の初出で「ドミニカ共和国」として、以降は「ドミニカ」とするものが多いです。見出しも字数に限りがあるため「ドミニカ」とすることがあるようです。「ドミニカ」だけでは「ドミニカ国」のことなのか「ドミニカ共和国」の省略なのか紛らわしく、読者の皆さんには少々不親切かとは思いますが、どうか本文の初出にご留意いただき、「ドミニカ国」なのかドミニカ共和国なのか判別ください。
【沢村斉美】