助詞と動詞のつながりについて伺いました。
「〜に暴行した」が「〜を暴行した」より優勢
前回に引き続き、助詞と動詞のつながりについて。暴行容疑、どう書く? |
○○に暴行した疑い 56.8% |
○○を暴行した疑い 36.1% |
どちらもよくない 7.1% |
「○○に」を選んだ人が「○○を」を選んだ人の1.5倍程度となりました。
「てにをは辞典」(小内一編、三省堂、2010年)を見ると「暴行」の項目には「婦女を暴行する」という例が出ています。
この辞典は語用の規範を示したものというよりは、実際の用例のコレクションなのですが、「○○を」が使われる実情を物語っています。
一方で、動詞を自動詞、他動詞と区別している明鏡国語辞典(第2版)では、「暴行」を自動詞としています。
自動詞についての明鏡の定義には「『人にかみつく』のように、対象への働きかけはあるが、『~を』にはならないものも、自動詞とする」とあります。
この考え方だと自動詞の「暴行する」は「~を」にならないので、「○○に暴行する」がよい、ということになりそうです。
「助詞・助動詞の辞典」(森田良行編、東京堂出版、2007年)では対人関係を表す言い方で、「に」と「を」が競合する場合がある、として「息子に頼る/息子を頼る」「弟を行かせる/弟に行かせる」のような例を挙げています。
毎日新聞の用例では「○○に暴行する」が「○○を……」の3倍ほどの件数にのぼり、どちらかといえば「に」を使いたいと考えますが、2種類の助詞が使われても問題がないケースと見なすべきかもしれません。
(2018年03月20日)
「暴行罪」は傷害罪と似た罪ですが、暴行を受けた相手が傷害を負わなかった場合に適用されます。
毎日新聞の記事データベースを見ると、過去約30年間の東京本紙において、「に暴行した」が431件、「を暴行した」が133件現れました。件数としては「に」が3倍ほどですが、どちらもよく出てくると言って差し支えないでしょう。
あるいは、このように直接的な目的語を取って「暴行する」を使うことに無理がある、という意見もありそうです。「○○に暴行を加える」とするか「○○を相手にして暴行する」のように間接的な形を取るべきだという考え方です。ただし、新聞では字数減らしの要請が強いので、必ずしも採用できないやり方かもしれません。
(2018年03月02日)