「カウンターパート」という外来語について伺いました。
目次
半数近くは「分からない」
米大統領の補佐官が日韓の「カウンターパート」と協議した――意味は分かりますか? |
十分理解できる 15.1% |
何となく分かる。説明は不要 8.7% |
何となく分かるが説明が欲しい 27.2% |
分からない。日本語で言い換えてほしい 49.1% |
「分からない。日本語で言い換えてほしい」という回答が半数近くに達し、校閲記者としても頭の痛いことになりました。「理解できる」「説明不要」を合わせても4分の1弱というのでは、説明なしで記事に使っても、多くの読者はその部分を何となく読み飛ばすということになりそうです。何らかの手当てが必要と考えられます。
元々の意味は「切り分けた証書」
オックスフォード英語辞典(2版)は「counterpart」の第1義(一番古い用法)として「The opposite part of an INDENTURE」と記します。「INDENTURE」は「正式証書」の意。ランダムハウス英和大辞典(2版)には「昔,同文の契約書を当事者の数だけ作成し,ぎざぎざの切り取り線によって分け,切れ目を合わせれば真偽を確かめられるようにした」とあります。
つまり、切り取られた正式な書類の(自分の持つ)一部に対応する他の部分が「counterpart」だということです。割り符や割り印をイメージすれば分かりやすいでしょう。写真で見られる昔の証書は、偽造しづらいようにわざとギザギザに切り取られています(米カンザス大のウェブサイトで画像を見ることができます)。
言い換え例は「対応相手」
自分の持ち分に対応する片割れ、という意味から派生して現在ではもっぱら「(特に・職責[機能]が)よく似た人[もの];同等物、等価物」(ランダムハウス)という意味で使われます。「Japanese officials are discussing this with their American counterparts. 日本の政府高官はアメリカの政府高官とこのことを討議している」(ジーニアス英和辞典5版)。今回の質問文によく似た例文ですが、「カウンターパート」を使わずに「政府高官」を繰り返し使うことで訳語としています。
以前のアンケートで「コミットメント」を取り上げたときに参照した、国立国語研究所による「『外来語』言い換え提案」(まとめは2006年)では「カウンターパート」も取り上げられています。言い換え語は「対応相手」。意味の説明は「交渉や共同作業を進める際の、互いに対等な地位にある相手」とあります。
特に「同格であることを明示したい場合は『同格対応相手』『同格者』と言い換えることもできる」と言います。質問文の例の場合には、「カウンターパート」が意味するのは大統領補佐官と同格の交渉担当者ということになりますから、内容的には「同格者」で合っています。ただし「対応相手」も「同格者」も、意味をかなり正確にうつしているとは思うのですが、日本語としてこなれているとは言いにくい。質問文の場合には同格であることは自明と考えることにして、「日韓の担当者/日韓側」と協議した、という程度の書き方でもよいかもしれません。
説明や言い換えが欠かせない語
国語研究所の言い換え例のまとめで参照されている「外来語定着度調査」によると、「カウンターパート」の認知率(見たこと・聞いたことがある人の割合)は10.3%、理解率(分かる人の割合)はわずか5.3%。これは2003年の調査なので、現在はもう少し増えているのではないかとも思いますが、今回のアンケートで半分程度が「分からない」と答えたのも当然のことと言えそうです。新聞などで使う場合には何らかの手当てが必須だと考えます。
ジーニアス英和辞典のcounterpartの項目には、こんな例文もあります。
It is difficult to translate terms with no direct counterparts into another language.
直接対応するものがない言葉を他の言語に訳すのは難しい。
翻訳者のため息とも言えそうな一節ですが、日本語を相手にしている校閲記者であってもその気持ちは幾分かは分かるかもしれません。原稿で目にしている言い回しは読者に端的に伝わるものなのか、適切な形に言い換えるべきではないか――言い換えや説明はうまくいかない場合があるのも事実ですが、慣れやあきらめに流されることなく突き詰めねばならないと改めて思わされます。
(2021年05月18日)
先日は「コミットメント」について質問しましたが、今回も外来語が題材です。「カウンターパート」という語について伺いました。
国語辞典の説明は「対の片方。対応するもの。(交渉の)相手方」(大辞林4版)というもの。対の片方、というのは割り符のそれぞれのような、片方から見たもう片方、という感じでしょう。
今回の質問文に即しているのは「(交渉の)相手方」という説明ですが、これも誰でもよいわけではありません。大辞泉2版は「対等の立場にある相手」という説明を載せており、質問文のケースでは大統領補佐官に相応する格・地位の官僚、ということになります。
新聞記事では、うまく説明できないためか、使用される場合には説明なしで使われることが多い言葉ですが、そうしたニュアンスまで通じているのか。皆さんはどう感じているでしょうか。
(2021年04月29日)