選挙の候補者に関する基礎的なデータは公職選挙法に代表される法令で規定されていることも多く、厳密さが要求されます。
選挙に関することで、一般記事と少し違うな、と思われる代表的なものは候補者の年齢でしょう。毎日新聞用語集にこういう記載があります。
満年齢の計算=一般には誕生日当日に満年齢になる。ただし公選法による被選挙権の年齢計算では「誕生日の前日」に満年齢になる。
(例)被選挙権=2013(平成25) 年7月31日に満25歳になる人は1988(昭和63) 年7月31日生まれでなく、同8月1日生まれの人である。
さらに、毎日新聞には「選挙の報道基準」という内規集があるのですが、そこにも「年齢」の項を立てて、こう記しています。
告(公)示以降は、公選法の規定に従い、すべて「投票日現在の満年齢」を使う。
満年齢は「年齢計算ニ関スル法律」(明治35年12月22日施行)で、年齢は誕生日から起算し、誕生日の前日をもって1歳増加する、と定められている。
つまり、候補者の年齢を紙面にする際は、「公選法」と「年齢計算ニ関スル法律」にのっとっているということです。
「年齢計算ニ関スル法律」というのはとても短い法律で、わずか3項目の条文です。全文を引いておきましょう。
年齢計算ニ関スル法律 施行 明治三五・一二・二二
①年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス
②民法第百四十三条ノ規定ハ年齢ノ計算ニ之ヲ準用ス
③明治六年第三十六号布告(年齢計算法ヲ定ム)ハ之ヲ廃止ス
③の「明治六年第三十六号布告」というのは、明治5年旧12月3日を明治6年1月1日として改暦されたのに伴い、年齢の数え方を定めた太政官布告です。
第三十六号(二月五日)(布)
自今年齢ヲ計算候儀幾年幾月ト可相数事
但旧暦中ノ儀ハ一干支ヲ以テ一年トシ其生年ノ月数ハ本年ノ月数ト通算シ十二ケ月ヲ以テ一年ト可致事
この布告は、今後「年齢計算ニ関スル法律」によって計算するのでもう要らないということです。
次に②の「民法百四十三条ノ規定」ですが、
民法143条(暦による計算)
①期間ヲ定ムルニ週、月又ハ年ヲ以テシタルトキハ暦ニ従ヒテ之ヲ計算ス
②週、月又ハ年ノ始ヨリ期間ヲ起算セサルトキハ其期間ハ最後ノ週、月又ハ年ニ於テ其起算日ニ応当スル日ノ前日ヲ以テ満了ス但月又ハ年ヲ以テ期間ヲ定メタル場合ニ於テ最後ノ月ニ応当日ナキトキハ其月ノ末日ヲ以テ満了日トス
というものです。民法では期間の数え方を定めていて、139条では「何時何分」という時刻を単位とする場合の起算点は即時、と定め、140条では週、月、年を単位とするときは原則期間の初日を算入しない、と定めています。それを受けての143条です。期間の計算で週、月、年を単位とするときは暦に従う、期間が満了するのは、その最後の週、月または年の起算日に当たる日の前日である、起算日が31日で当該月に31日がないときは30日で満了、というような規定です。「年齢計算ニ関スル法律」はこの規定を準用せよと言っていますので、「出生ノ日」を起算の日として、1歳の満了は「出生ノ日」「ノ前日ヲ以テ」ということになります。
分かりにくいですね。一般には誕生日で一つ年を取るということが定着しているように思いますが、前日に既に年を取ってしまうとは、面倒な数え方をするものです。このことは2002年の国会でも質問されていますが、政府の答弁は現行の数え方を支持するものでした。当分この数え方は変わらないものと思います。
さて、さらに、公職選挙法の規定を見てみましょう。
(被選挙権)
第10条① 日本国民は、左の各号の区分に従い、それぞれ当該議員又は長の被選挙権を有する。
一 衆議院議員については年齢満二十五年以上の者
二 参議院議員については年齢満三十年以上の者
三 都道府県の議会の議員についてはその選挙権を有する者で年齢満二十五年以上のもの
四 都道府県知事については年齢満三十年以上の者
五 市町村の議会の議員についてはその選挙権を有する者で年齢満二十五年以上のもの
六 市町村長については年齢満二十五年以上の者
②前項各号の年齢は、選挙の期日により算定する。
「選挙の期日」つまり投票日で年齢を数える、という規定です。立候補時すなわち公示日には25歳に達していなくても、投票日に達していれば衆院議員の被選挙権があるということです。
こういった規定から、立候補している方の年齢を計算しています。
選挙で必須の基礎的なデータを紙面化するには大変な労力が必要です。2014年12月の衆院選では1191人の方が立候補しましたが、公示日当日にすべてをチェックすることは不可能です。事前情報で立候補しそうな人のデータをできるだけ集めて照合を済ませておきますので、1300人前後のプロフィルをチェックしていたでしょうか。年齢だけでなく、氏名、性別、党派、新人か経験者かの別、簡単な経歴といった基礎的なデータに年齢同様、細かく規則があります。しかし、これらの基礎データなしに投票先を判断するのは難しいと思います。これらの項目を、できる限り公平、公正に伝え、考える材料にしていただきたいと思っています。この作業にミスがないか、チェックするのも校閲の仕事の重要な役割です。ぜひ、投票先選びにご活用ください。
【松居秀記】