昨今「心の声」全盛期である。2014年(第65回)紅白歌合戦では「紅白ウラトークチャンネル」での自由すぎる副音声が大きな反響を呼び、連続ドラマ「ファースト・クラス」では働く女性同士の嫉妬や本音の応酬が「心の声」としてテロップでも表示され、出演者ら自ら作品の解説をしたり感想を述べたりする「副音声」の試み自体がテレビ誌の発表する賞の特別賞を受賞している。主たるストーリーと同時進行で語られ、副音声を担当する俳優などと隣で一緒に見ている感覚で番組を観賞でき、さらに主音声とは全く別の撮影の裏話を聞けるというお得感がいいらしい。
この「心の声」、校閲の仕事でも大いに活躍している。大阪市大正区で起きた衝突事故の初報で、「パトカーと衝突したトラックは、中央分離帯を倒して反対車線に飛び出し」と原稿に書いてあった。普段車を運転しないためイメージに乏しいが「中央分離帯って倒れるのか?」と自身の心の声が聞こえた。中央分離帯とは車道を方向別に分離するために中央にある地帯のことで、大抵柵があったり草が生えていたりする。調べてみると、メディアではこの柵等を中央分離帯と伝えることもあるようだが、厳密にはその一帯のことを指す言葉であるし、過去の記事でも使っていない。中央分離帯に乗り上げたならともかく、何を倒したのだろうと思い記事の出稿元に問い合わせると「中央分離帯のガードレールを倒して」と追加の直しが入った。校閲に限らず、新聞社の業務に機械が大きな役割を持つようになっても、人間が感じる言葉の微妙な違和感は必要なものだと思う。また違和感があるか否かも職場内で人によって違い、それを議論し合う時間も校閲業務の一助となっている。
話は変わるが、大阪に住み始めて丸3年が過ぎようとしているのに、恥ずかしながら先日初めてなんばグランド花月で吉本新喜劇を見てきた。会場は常に笑いと拍手に包まれ楽しい時間を過ごし、すっかりファンになってしまった。笑いが絶えない理由は突っ込みが立て続けに入るから。「邪魔するでー」「邪魔すんのやったら帰ってー」に始まり、「横顔新幹線やーん」「黄色い線までお下がりください」「グリーン車か」と息もつかせぬ会話の応酬。見たことがない方は一度お試しあれ。
仕事の話に戻って、3月14日に長野―金沢間が開業した北陸新幹線の最速タイプ「かがやき」の開業日前売り切符が約25秒で完売するという人気ぶりを伝えた記事を校閲していた時だった。12両編成の934席全席が指定席なのだが、仕事が終わってから同僚に「よく読んだら全席指定だから指定席券ってわざわざ書くのもダブりですよね」と言われた。原稿では「夜から指定席券を求める人たちが並んだ」「一番列車の指定席券を入手した○さんは」と何度も書かれていた。より良い書き方があったかは分からないが、確かにくどかったかもしれない。その突っ込みは私には思いつかなかった。心の声が新喜劇並みのテンポと鋭さを持てるようになると、校閲の修業も次の段階に移れるのだけれど……。
【松本允(ゆん)】